わたし、本当はずっと
試合が終わった瞬間、泣いちゃうんじゃないかと思った。
多紀ちゃんのこと信じてるよ。客観的に見ても大丈夫だと思っていたよ。
それでも心配でたまらなかった。泣いちゃうんじゃないかと思った。
お疲れさま、多紀ちゃん。お疲れさま、おつかれさま。
合宿所で食べる最後のお昼は、ミートソースのスパゲティを選んだ。
渋沢さんに誘われたから一緒に食べた。藤代君も一緒。にぎやかで楽しいご飯だった。
部屋に帰って荷物を片づける。集めたデータ、忘れずに持って帰らなきゃ。高縄中のみんな、これで都大会が少し楽になるよ。フォーメーション、いっぱい考えるよ。
全部鞄にしまい終わると、選考会議に出てた西園寺コーチが帰ってきた。
コーチにはいっぱいお世話になった。今までは顧問の先生に頼っていたトレーニングの方法だとか、効果的なミニゲームのやり方、それに何より型にはまらない、選手の才能を伸ばす練習。
いっぱいいっぱい教わった。すごい人だと思う。西園寺コーチ。
せめてお礼の言葉を、と思っていると、逆に振り向いて話しかけられた。
「ねぇ、杉原さん。よければ選抜の練習でも私の補佐をしてくれないかしら」
何だか楽しそうに西園寺コーチは笑ってる。こういうときに、コーチはすっごく綺麗な人だなぁって思う。
いいな。わたしもこういう素敵な女の人になりたいな。
「補佐なんて言葉だけで、実はあなたにもっとコーチングを学んでもらえたらと思うの。この合宿で再認したけど、あなたには指導者としての才能があるわ。勉強すれば今よりももっと素晴らしい監督になれるわよ」
「監督・・・・・・?」
「今の日本では、現役を引退したサッカー選手が後続の指導にあたっているのが現状だけど、世界を相手に勝ち進んでいくためには、やっぱり適切なコーチング指導を学んだ人材が必要だわ。あなたはその一人になれると思うの」
西園寺コーチは床にひざをついて、わたしと目線を同じにして。
まるでフィールドの選手を見るみたいな目で、わたしを見て言う。
「選手を導き、選手と一緒に戦いましょう。あなたならそれが出来るわ」
・・・・・・ずっとずっと思ってたの。多紀ちゃんの力になれたらって。毎日ボールを蹴り続ける姿に、ずっとずっと思ってたの。
私も多紀ちゃんの力になりたい、って。
多紀ちゃん、わたし
2006年5月18日