やっぱり優しい人だったよ。





「このゲームでは、最終選抜メンバーに確定した者から抜き出してるんですから」
玲のこの台詞で、一気に謎は解き明かされた。
途端に空気が張り詰めるピッチ内。だけどそこにも入れてない奴らの焦燥ほどじゃないけどね。
今のところ合格者は水野に藤代、そして僕。まぁ渋沢なんかも早々に合格するだろう。むしろ今残っているのは後続のキーパーが期待薄だからじゃないの。
それと郭や真田、それと天城なんかも時間の問題かな。
「おまえの読みが正しかったね。フォーメーションじゃなくて個人対策にして正解だ」
近づいて声をかけると、バインダーを握りしめてピッチを見つめてたマネージャーが振り返った。その顔色に思わず片眉を上げる。
もともと色白の顔が、今は青ざめてる。何、まさか杉原の心配でもしてるわけ?
「信じてないの? 双子なんだろ」
「・・・・・・双子じゃなくても信じてます。多紀ちゃんが選抜に残れるレベルの実力を有しているのは、客観的に見ても明らかですから」
「じゃあ何でそんな顔してるわけ?」
聞くと、マネージャーはくしゃっと顔を歪ませた。色素の薄い前髪がまつげを隠す。
そういやこいつ、僕より小さい。誰かを見下ろすなんて将以外で久しぶりだ。特に女は成長が男よりも早いから。
だからだろうね。構いたくなる。将と同じで放っとけなく感じるのは、こいつが僕より小さいからに違いない。
「・・・・・・男の子に生まれたかった」
「―――はぁ?」
「男の子に生まれれば、もっとずっと、多紀ちゃんの、直接的な力になれるのに」
泣きそうな顔でフィールドの杉原を見ている。
その顔立ちはよく似てるけれど、でも気にすれば違ってる点が見えてくる。例えば頬のラインの丸みとか、まつげの長さや唇の色鮮やかさ。杉原にはないそれらすべてが言ってる。目の前のこいつは女なんだと。
女だから、男じゃないから、共にフィールドに立てないから、だから役に立てないと言う。
・・・・・・馬鹿じゃないの、おまえ。
「十分、力になってるだろ」
唇をかみしめていたマネージャーが顔を上げる。そういや、こいつの名前聞いてない。
「おまえは十分、杉原の役に立ってるよ。事前に集めたデータは適確だったし、それを元にした対策も、使わなかったけどフォーメーションも、そこらへんの奴じゃ考えもつかない代物だった。この僕が言うんだから間違いない」
きっと玲だってそう言うだろう。コーチの補佐なんてのも、Bの戦略のためなんてのも多分嘘。傍で確かめたかったからに違いない。こいつの監督としての才能というものを。
「それにおまえ、さっき自分で言っただろ? 『双子じゃなくても信じてる』って。杉原だって同じだよ。おまえが『男じゃなくても力になってる』って言うに決まってる」
むしろ『男じゃないから力になってる』かもしれないね。
「それに少なくともおまえは、僕の力にはなれたわけだし?」
本当は言う気のなかったことを告げてやる。これも全部、泣きそうな顔してるこいつが悪い。僕が構うのは泣かせるためじゃない。将を見てれば分かるだろ?
きょとんとしてるだろう顔を見ずに、ピッチに顔を向けたまま言ってやる。
「昨日、食堂で鳴海に言った言葉」

―――嬉しかったよ、ありがとう。

レモンティー1缶分の礼のはずが、ずいぶんとプラスαをつけてしまった。
でもほんのりと笑ったおまえの顔でチャラにしてやるよ。
あぁ、それと名前も教えてもらわないとね。





自分より小さなものに優しいちゅばさ。
2006年5月15日