もらっちゃったよ。





就寝ちょうど一時間前に、部屋の扉がノックされた。
翼に言われて六助が迎えに出ると、そこには予想通りマネージャーと杉原がいた。
二人は揃って「おじゃまします」と言ってから入ってくる。
「フォーメーションは組めたんだろうね?」
ドアが閉まると同時に直球で翼が聞くと、マネージャーは頷いた。
「Aの選手を分析し、Bの戦力でどんな戦いができるのか、パターンをいくつか考えました。でも明日の試合では、フォーメーションよりも各選手への対策をしっかり覚えておいた方が有効だと思います」
「ふうん? 続けて」
「先ほど西園寺コーチにお聞きしたところ、明日の試合では交代枠を設けずに、何人もの選手を投入していくと仰っていました」
「動きの悪い奴、見る必要がないと判断された奴が交代させられていくのか」
「おそらく。ですので特定のメンバーを元にしたフォーメーションというのは実際に行うのが難しいと思うんです」
「だから個人の対策を打つ、か。悪くないよ、話を聞こう」
ここでようやく、翼は二人に座るように言った。
五助と六助はそれぞれ二段ベッドの上段にいるし、下段は翼が一つ使ってる。俺は座っていたベッドから立ち上がり、二人に譲った。
「ありがとう、黒川君」
杉原が笑いながら言ってくる。マネージャーもぺこりと頭を下げた。やっぱ似てるのな、双子って。五助と六助は外見はすげぇ似てるけど、兄弟だからかここまで息は合ってない。
「Aのスターティングフォーメーションを考えるのは尾花沢監督なので、代表でも多用されている3−5−2システムで来ると思います。パサーは水野・郭・三上の三人を見たいんじゃないかと」
「フォワードははっきり言ってAの方が数段上だね。藤代・真田・鳴海・設楽のどの組み合わせで来ても、Bより強い」
「でも受け身になったらAの思う壺です。郭君は多紀ちゃんが潰します」
「へぇ、出来るの?」
翼の視線を受けて、杉原が笑った。曲者の笑みだな。翼や監督とはまたちょっと違った感じの。
「郭のプレーは何度も見てますから。対策も練ってきましたし」
「多紀ちゃんに早く勝ってもらって、郭君のファイルを捨てるんです。三上さんは今日見ていて気づいたんですが、水野君への対抗心が強いです。なので上手く行けば自滅も誘えると思います」
「水野を活躍させて、三上を焦らせるか。賭けだね」
「水野君はレフティなので、その点ですでに他の選手より有利です。でも彼はその左にこだわっているみたいなので、ディフェンスは左のラインを消す感じで・・・・・・」
いろいろ書き込んであるノートを間に、翼とマネージャーの戦略会議は就寝時間が過ぎても続いた。
そういや、ここまでサッカーに詳しい女って、監督以外で初めてだな。



結局、日付が変わる少し前に頭脳会議は終了した。
五助と六助なんか、もういびきをかいて寝てる。かくいう俺もあくびをいくつ噛み殺したっけな・・・。
「じゃあ明日、Bの奴らに伝えとくから」
「はい、お願いします」
「おまえも今日は早く寝なよ。あぁ、それとこれ」
鞄から缶のレモンティーを取り出し、翼はマネージャーの手に押し付けた。もう冷たくもないし、熱くもないだろう。
「あげる。お疲れ」
「え・・・いいんですか?」
「良くなきゃあげない。前にも言ったと思うけど?」
「はい・・・ありがとうございます」
マネージャーはぺこりと頭を下げ、やっぱり声をはもって「おやすみなさい」と言って二人は部屋に戻っていった。
どこか上機嫌にレポートの束をまとめている翼に、思わず首を傾げる。
「何でやったんだ? あの缶」
「さぁね。おまえもさっさと寝ないと明日に響くよ」
「・・・・・・あぁ、じゃあ寝るか」
翼は喋りそうにねぇし、これ以上聞くのも野暮ってもんだろう。
ベッドにもぐりこみ、携帯のアラームを仕掛けた。
「消すよ、柾輝」
「あぁ」
「おやすみ」
「おやすみ」
パチンと音を立てて部屋が暗くなった。
明日は選考を決める最後の日。
「・・・・・・絶対に勝つからな」
「あぁ」
翼の呟きに頷く。
どこか寝不足な顔になるまで起きて、データを分析していたマネージャー。
その期待に応えたいと思いながら、俺はゆっくりと目を閉じた。





柾輝は実によい男だと思います。
2006年5月12日