・・・・・・一緒についてきてくれる?
パシーンというこきみよい音がした。実に見事なクリーンヒット。
平手打ちを食らった鳴海は、茫然としている。それを真下から睨んでるマネージャーの杉原さん。ちっこいのにやるねぇ。
「・・・・・・弱くなんかない」
食堂中の視線が今、この二人に集まってる。
「確かに多紀ちゃんは細いし、カザ君や椎名さんは大きくないけど、それでも選抜候補になる条件をクリアーしてここに来てるの。それを馬鹿になんかしないで」
ほのぼのしてる子かと思ってたけど、言うときは言うね。でかぶつの鳴海相手に全然びびってない。
「『チビだから』とか『よわっちいから選抜に残れない』って言葉、取り消して」
「・・・・・・んだよ。本当のことだろ」
「取り消して」
「取り消さねぇ。あいつらはよわっちいから落ちる。受かるのは俺様みてぇにデカくて強ぇ奴だ」
相手が女ってことで鳴海もどうにか切れてない。
藤代たちと夕飯を食べてた渋沢が立ち上がりかけてる。止めようとしてんだろうなー。
でも残念。杉原さんの反撃の方が早かった。
「わたしが監督なら、鳴海君よりも天城君を選ぶ」
「あぁっ!? 何だとテメェ!」
ざわって食堂中が騒がしくなった。天城って確かBのフォワードだっけ。今日のミニゲームでも活躍してた、鳴海と同じ大型パワーフォワード。
「同じようなフィジカルなら天城君の方がいい。天城君は鳴海君と違って足元も強いし、ポストプレーだって出来る」
「知ったような口叩いてんじゃねぇ! 女だからって容赦しねぇぞ!?」
「知ってるもん! 春の大会、全部見たもん!」
ちっこい杉原さんは、どんなに睨まれても鳴海から視線を逸らさない。あの細い体のどこにそんなパワーがあるんだろ。
「明星中9番、鳴海貴志。春の大会は一回戦江戸川二中、スタメンで出場、後半10分で交代、二得点。二回戦柳原中、スタメンフル出場、一得点。三回戦脇坂二中、前半30分から出場、一得点。準決勝立川学院中、スタメンフル出場、無得点。決勝武蔵森中、スタメンフル出場、無得点」
・・・・・・あぁ、確かそんなだった気がする。っていうか本人より分かってない? 杉原さん。
「五試合でシュート数19本、ゴール数4本。イエローカード一枚、ファウル五回、審判からの警告四回。ヘディングが得意で空中戦に強いけど、その分ドリブルやパスが下手。トラップミスからのカウンターを受けることも多く、ディフェンスも体格任せのものが多い」
うわ、これも見事当たってる。やるねー杉原さん。
「鳴海君がフィジカル強いのは認める。でもフィジカルが弱い分、カザ君は敏捷さで頑張ってる。椎名さんの読みや判断力は立派な武器だよ。多紀ちゃんだって―――多紀ちゃんだって」
杉原さんは何だか泣きそうで、ぎゅっと手のひらを握りしめてる。
「鳴海君の体格は与えられたものだけど、多紀ちゃんのパスは努力だよ。それはフィジカルなんかよりもずっとずっと、手に入らないものなんだから」
静まり返った食堂に、杉原さんの小さな声がはっきりと響き渡った。
鳴海は気圧されて言葉をなくしてる。でも俺としては杉原さんに賛成。体格に恵まれてない者の苦労は、俺もそれなりに体験してるし。鳴海の足技の下手さが災いして相手の得点に結びついた試合も何度も見てるし。
だからフォローもしてやんない。いい気味だから見てるだけ。
静かに歩み寄ってきた渋沢が、杉原さんの肩に手を置いてなだめる。そして彼女を促すようにして、二人は食堂から出ていった。
周囲が一気にうるさくなるけど、鳴海はまだぼけーっとつったっている。
「おーい・・・鳴海ー?」
「平気かー?」
桜庭や上原のかける声にも反応しない。これだけのダメージを与えるなんて、やるねー杉原さん。
その後、鳴海はすぐに復活して杉原さんの悪口とか言ってたけど、気にしてんのはモロバレ。
見てて楽しいから放っておいたけど、寝る前に部屋に戻るとき、また杉原さんが現れた。
後ろから鳴海のティーシャツの裾を引いて、おずおずと睨むんじゃなく見上げて。
「・・・・・・さっきは・・・ひどいこと言って、ごめんなさい。わたしね、鳴海君の主張するような力強いプレーも好きだよ」
あ、鳴海が固まった。
「それだけ言いたくて・・・・・・本当に、ごめんね」
ちっちゃな手が離れて、杉原さんはぱたぱたと走ってく。
あー・・・あそこで待ってるのが「多紀ちゃん」なのかな。容姿もそっくりだし、双子って感じ。
手を繋いで去っていく二人が角を曲がって見えなくなると、鳴海は「ああああああー・・・・・・っ!」とか何とか叫びながら、頭をかきむしってしゃがみ込んだ。
茶髪のロンゲから見える耳は、トマトみたいに赤く染まってる。
「だから嫌いなんだよっ・・・・・・チビって奴は・・・・・・!」
そりゃご愁傷様。
でも鳴海、いくら単純馬鹿なおまえでも、それが「嫌い」じゃないってことくらい気づいてるだろ?
もしも気づいてないならコンビを解消しよう。でもって杉原さんに、俺にぴったりのツートップ組めるフォワードを紹介してもらうことにしようっと。
多紀ちゃんのことは譲りません。
2006年5月12日