月がとってもきれいだね。





小岩君の歯軋りがすごくて全然眠れない。この中で寝られるカザ君と不破君がうらやましいよ・・・。
気分転換も兼ねて部屋の外に出ると、もう深夜を回ってるから足元の誘導灯しかついてなかった。
廊下の先は見えないし、音も全然聞こえてこない。何だかお化け屋敷みたいでどきどきする。
トイレに行って戻ってくる途中、階段から足音が聞こえてきて僕も足を止めた。
誰だか分かるから、驚く必要も怖がる必要もない。
「―――多紀ちゃん」
「起こしちゃってごめんね、
「ううん。わたしもまだ寝てなかったから」
僕の傍まで来て、が笑う。双子だからかもしれないけれど、僕たちは互いが寝たり起きればそれが分かるという不思議な習性を持っている。
「何だか久しぶりな気がするね」
「忙しくてあんまり喋れなかったものね」
「お仕事お疲れ様」
「多紀ちゃんこそお疲れさま」
廊下にいるのも何だし、階段をひとつ下って窓から外に出る。スリッパだけど芝生に入れば素足でも平気。
現にはすぐに裸足になっ、て月光の中で伸びをした。
「データの方はどう? 順調に集まってる?」
「うん、集まってるよ。Bの子は一芸に秀でてる子が多いから、面白いチームになりそう」
「Aはユース組が多いからね。レベルは高いけど模範的なサッカーになりそう?」
「その差がどこまで縮められるかだね。明日の夜に椎名さんに資料を提出するから、多紀ちゃんもそのとき一緒にいてくれる?」
「いいよ」
「Bチームはね、椎名さんと多紀ちゃんと天城君を軸にしようと思うの。カザ君も小岩君もいるし、サイドの黒川君もいる。スピードならBが上だよ」
「ディフェンスも椎名さんたちは同じ中学だし、ラインが形成できそうだね。キーパーの二人もすごく感じよかったし」
僕らが使った後にも誰かが練習したのか、サッカーボールがひとつゴールネットの上に残っていた。
ジャンプして押し上げ、落ちてきたそれを素足で受け止める。
軽く蹴ると狙い通りゴールバーに当たって跳ね返ってきた。同じことをまた繰り返す。
「プリンに醤油、入れてみた?」
「入れなかった。黒川君が調味料隠しちゃった」
「誰かと仲良くなった?」
「渋沢さんとお話したよ。わたしたちのこと知ってたみたい」
「郭はどうだった?」
「・・・・・・郭だった」
途端にの顔が不機嫌そうになった。僕が郭のことをライバル視してるから、も郭のことが嫌いみたい。
それでも評価は贔屓しない。郭だったってことは、やっぱりそれなりにあいつも成長してるってこと。
そうでなきゃ倒し甲斐がないよね。対戦できるのが楽しみだなぁ。
「多紀ちゃん、オーバーワークだよ」
ゴールバーに12回目のボールが当たると、が僕のところに返るよりも早くそれを捕まえる。
ぽんっと投げて、ボールはまたネットの上に戻った。置いといたスリッパを持って芝を出る。
握ったの手は今日も温かくて優しい。
「・・・・・・一人部屋なら、多紀ちゃんと一緒に寝れるのに」
拗ねているに思わず笑ってしまった。
「帰ったら一緒に寝ようね」
約束をして、を部屋まで送って別れる。



窓から入ってくる月光が綺麗で気持ちいい。
今なら小岩君の歯軋りの中でも気持ちよく寝られそうだと思った。





どっちにとっても安定剤。
2006年5月10日