「なぁ、クリスマスイブは空けといてや」
「・・・今から冬の約束?」
「せや。二人っきりでデートしよな」



夏の日差しも厳しくなってきたのに梅雨晴れはまだ宣言されない。
そんな、7月の上旬。





青春学園中等部生徒会(先手必勝編)





久しぶりの逢瀬は池袋にあるお洒落なオープンカフェで。
通りに面したテーブルは座る客を選んで店員が案内するけれど、この二人は文句なしに通された。
そうして街並みをバックに話は進んで。
少し長めの黒髪に眼鏡をかけた彼氏は、嬉しそうに笑いながら。
色白の肌を引き立てる黒髪セミロングの彼女は、穏やかに微笑みながら。
楽しそうに、会話を交す。



「俺が最初やろ? クリスマスの予約するん」
アイスカフェオレをストローで揺らしながら、忍足侑士が尋ねる。
「うん。侑士が一番ね」
「やった! これでこそ待ちに待った甲斐があるってもんや」
嬉しそうな様子で言われた台詞には微笑する。
手元のアイスミルクティーのグラスを撫でながら首を傾げて。
「だってまだ夏も来てないのに。ちょっと気が早すぎるんじゃないの?」
「せやかて夏が終われば予約は殺到するやろうし。デートに関しては先着順に受け付けるやろ? なら早い方がええと思ったんや」
「今はまだ、夏休みの予約を取りに来る人で一杯だからね」
「あーそういや昨日ジローも言うてたわ。何や、一緒に花火見に行く約束したんやて?」
「そう、8月の終りに」
「ズルイわ、そんなん」
忍足が拗ねたように唇を尖らせる。
年齢に似合わない大人びた容姿にも、何故だかそれは違和感なく似合って。
カッコイイと可愛いが同居する仕草に魅了される者は多い。
けれどは小さく笑うだけ。
「侑士は8月は実家に戻るんでしょう? 忍足専務が仰ってたわ」
「親父とお袋だけ帰ればええのに、何で俺まで行かなあかんねん」
「親戚が全員集まるのに、せっかくの嫡男が不在でどうするのよ。しっかりお披露目してきなさい」
「・・・いやや、そんなん」
ますます不貞腐れた忍足にはクスクスと声に出して笑う。
艶やかな黒髪がそれに併せて揺れて、忍足は眩しそうに目を細めた。
「な。・・・も一緒に行かへん? 夏の京都は暑いけど、いろんなとこ案内したるで?」
「ダーメ。8月は家族旅行が入ってるもの」
「あぁ、愛しの弟クンと?」
「そう。だからゴメンね」
笑顔のまま言われて、忍足は少しだけ残念そうに肩をすくめる。
「なら帰ってきてからデートしてや。そんなら俺も実家でよう挨拶してくるし」
「侑士」
「な、頼むわ」
拝むように片手を添えられて、おまけにウィンクまでつけて。
絵になっている二人の様子を遠巻きに見ていたカフェの客や、通りすがりの女性がそれを見て頬を赤く染める。
は少し考え込むように首を傾げて、籠で出来たバッグからシンプルな黒の手帳を取り出した。
「何日頃に帰ってくるの?」
「遅くとも25日には帰れるはずや。あかんかったら俺だけ帰ってくる」
「それじゃあダメ。最後まできちんと振る舞ってくること」
「それやったらチュウしてくれる?」
「バカ」
二人して笑いあって。
手帳には新しい約束が書き足された。
次の逢瀬のための、指切りもして。



「あ、そうだ。言い忘れてたんだけど」
並んでウィンドウショッピング。
強し日差しがの白い肌に当たらないようにガードして。
彼女の美しさに魅了される男たちの視線からもガードして。
自分に向けられる女たちの視線はそのまま放っておくけれど、少しは嫉妬くらいして欲しい。
そんな気持ちを伝えたくて、その細い手を握り締めた。
「何や?」
「クリスマスイブはダメなの。その日は最優先されるべき人がいるからね」
『最優先されるべき人』
その言葉を言われて思い出すのは去年あった、特別な日。
「・・・・・・誕生日の奴がおるんか・・・」
ガックリと肩を落として呟く忍足に、も済まなそうに、でも楽しそうに笑って。
「そう。しかも二人もいるから大変で」
は誕生日の奴を何よりも優先するからなぁ」
去年の自分の誕生日は、たしか別口の約束があったらしいけれど、それでも自分を優先してくれて。
すごく嬉しかったのを覚えてる。
けれどまさか───────────。
「・・・他人にやられる日が来るとは思わんかったわ・・・・・・」
ここまで落ち込むものなのか、と内心で昨年自分のために落ち込んだ相手に謝罪したりして。
は繋いだ手を握り返して微笑んだ。
「その日以外ならいつでもいいよ。23日でも、25日でも」
「んー・・・せやったら23日やな。その日は一日俺のために空けといてや」
「オッケ。ご予約承りました」
ふざけたように交す約束。
半年後のための指切りもして。
「・・・・・・誰の誕生日なん?」
探りを入れてみたくなるのも、相手を好きなら当然のこと。
「越前は知ってるよね?」
「ああ、青学のルーキーか。あいつクリスマス生まれやったんやな」
「あとは年上の人。偶然知り合った高校一年生」
「・・・・・・男?」
「イエス。男性。静かであんまり話さないけど、すごく優しい人だよ」
「・・・・・・惚れてるんと、ちゃうよな?」
握った手に力を込めて。
ざわざわと波立つ心。
不安が胸一杯に広がって。
はそんな忍足に微笑んだ。



「惚れてるかもね」



唇を噛み締めた相手に『笑顔』で笑って。



「侑士と同じくらいに」



そのテニスで鍛えられた腕に自分の腕を絡ませた。



夏の暑さの中で輝く相手に目を細めて。
今だけは自分の隣にいれくれることに感謝して。
軽いキスを贈ってみた。



それがバレて同校テニス部レギュラーに殴られるのは、週明けの月曜日のこと。





2002年12月3日