付き合いを始めてから三年目。
同じ生徒会で働き出してから半年以上。
いい加減に注意するのにも疲れたのか、手塚は机の上に散らかっているチョコレートを見ても何も言わなかった。
たとえここが飲食禁止の生徒会室だとしても。





青春学園中等部生徒会(ゴディバ編)





甘いキャラメル色の上品な包装紙。
それをさらに美しく飾りつけるロゴ入りのリボン。
有名なそのメーカーはいかにお菓子に疎い手塚といえど知っていた。
そして三秒考えて。
「ゴディバ・・・・・・・・・跡部か?」
「ピンポンピンポン大正解☆」
明るく言ってチョコレートを一粒口に運ぶのは言わずと知れた生徒会副会長・である。
「昨日デートでね、偶然お店の前通りかかったら跡部が買ってくれたの」
「貢がせたんじゃなくてか?」
「そうとも言う」
「言うな、馬鹿」
そう手塚に言われても少女は気にせずにコーヒーを入れる。
「だって買ってくれるって言うんだからお言葉に甘えたっていいと思わない?」
「恋人でもない相手に貢がせてどうする」
「恋人でないから貢がせるのよ。本気で好きになった相手に貢がせるなんてことはいくら私でもしないわよ」
コトンと手塚の前にもマグカップを置いて。
「・・・・・・たぶん」
「たぶんなのか」
呆れて憮然としながら手塚もコーヒーをすする。
ブラックコーヒーは手塚の好みであり、またの好みでもある。
「ほら、手塚も食べてみなよ。このプリンセスエキストラビターなんかあんまり甘くなくて手塚の好みよ」
「こっちのは何だ?」
「それはメダイヨン。ミルクチョコの中にビターチョコのコニャックが入ってるの」
「じゃあこっちは?」
あぁだこうだと説明を聞いて結局はヘーゼルナッツ入りのプラリネに決定。
「・・・・・・美味いな」
「でしょ? これを箱で買ってくれるんだからやっぱり跡部はお坊ちゃんよね」
「おまえも自分で買えるだろうが」
「買ってもらうからいいのよ。その方が美味しさも増すってものよ?」
訳の分からない理論を振りかざしながらもチョコを食べる手は緩めない。
手塚は一つため息をついた。
そしてマジマジとキャラメル色の包装紙を凝視する。
「・・・・・・・・・前回はロイズコンフェクトのマシュマロチョコレートを土産に貰ってたな」
「そうよ、よく覚えてるわね。跡部とデートすると色々贅沢できて嬉しいわ」
「援助交際だな」
「うわひっどい! 言っとくけど体売ったりしてないからね。ただ会って一緒にご飯食べて映画観たりするだけよ?」
「・・・・・・跡部が、か?」
「そうよ? 昨日は11時に待ち合わせしてお昼をフランス料理専門店で食べて、その後で一緒に買い物をしただけよ。3時にお茶して6時にはサヨナラ。いたって健全なデートでしょ?」
「・・・・・・・・・あの跡部が、か?」
しつこいように手塚が繰り返す。
手塚の中の跡部はというと氷帝の王様、泣かせた女は数知れず、とっかえひっかえしまくりで女癖は最悪。しかも顔と家柄がいいから寄ってくる女は後が絶たない、という認識だ。
たしかに青学で流れている跡部の噂はそんなものなのだが。
その跡部が何もせずに6時にサヨナラ?
天変地異の前触れかと手塚は眉間にシワを寄せたが、は持っていたペンをくるくると回して話し出す。
「私は別に跡部の顔や家柄が好きなわけじゃないから。むしろ性格ね、友達にするには面白いと思うけど。跡部もそんな私だからこそ余計な見栄とか張ったりしないで気楽に付き合えるんでしょ」
「・・・・・・・・・」
確かに言われてみればその通りかもしれない。
思うところはたくさんある。
このという少女は見かけに左右されたりすることは決してない。
だからこそ青学テニス部の面々も親しく付き合っているのだから。
そんなの魅力に惹かれている者も多い。
自分もその一人なんだろうと、手塚は思う。
「だから跡部は私に甘いのよ。たぶん大切で近くにいてほしいんでしょうね。そのために私が欲しいって言ったお菓子を必ず買ってくれる。それさえなければ普通の友達にもなれるのに」
「・・・・・・なら教えてやったらいいだろう」
「やあよ。折角のパトロンなのに。それに跡部は私と友達になりたいわけじゃないらしいし」
「・・・・・・・・・?」
「『俺の女になれ』って。あぁもう可愛いわよねー。本当にどうしようもなく子供なんだから」
カラカラと笑うは本当に面白がっているようで、手塚は心中で跡部に同情した。
これはどう見ても恋愛対象に対する反応とは思えない。
「・・・・・・・・・断ったのか」
「当然でしょ? この私が一人の男のものになると思うの? この広く浅く博愛主義者の私が?」
「いや、思わない」
そう答えれば満足げに笑って。
チョコレートは確実に減っていく。
甘く甘くコーヒーと共に。



二人して書類を片付けていると思い出したようにが顔を上げた。
「そういえばねー、明日の放課後はデートなの」
「・・・・・・今度は誰だ?」
目線を上げずに問うが、は楽しそうにニヤリと笑って。
「誰だと思う?ヒント1・年上」
「・・・・・・?」
「ヒント2・眼鏡」
「・・・・・・・・・?」
「ヒント3・手塚と私、それにテニス部の三年は知ってる」
「・・・・・・・・・」
「まだ判んない? じゃあ最大のヒント! ・・・・・・手塚のターニングポイントとなった人だよ」
ハッと息を呑んで顔を上げる。
「大和部長か・・・・・・!?」
「ピンポンピンポン大正解☆」
先ほどと同じように手を叩いて、がおめでとうと言う。
「さっき電話があって『ちゃん、明日は久し振りにお茶でもどうですか?』って誘われたんだ。何か伝言ある?」
「・・・・・・・・・いや、特にない」
「そ。じゃあテニス部の現状でも伝えとくわ」
そう言って再びペンを走らせる。



告白してきた男から貰ったチョコレートを食べながら、他の男とのデートの話をするなんて。
まったくとんでもない奴だと思う。
それでもそれこそがこの少女の魅力なのだから。
誰かに囚われてしまってはきっと輝きを失ってしまう。
そうならないことを心から願った。



「・・・・・・・・・『さっき』と言ったがどこで大和部長から電話を貰ったんだ?」
「もちろんココでだけど?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



飲食禁止・携帯の使用も禁止。
それを守れる日はどうやら来ないのかもしれない。
手塚は大きくため息をついた。





2002年9月5日