04.ドン・ラガツァ
輝き、潰えた青の閃光。握り締めたおしゃぶりが鈍い音を立てる。せり上がって来るこの気持ちが怒りなのか悲しみなのか分からない。ただリボーンは女を睨み付けた。再度、言葉を切るようにはっきりと告げる。
「コロネロなら、たった今、死んだぞ」
「・・・・・・そう、どこまでいけたのかしら。ドン・ヴェレーノはやれたのかしら。ヴィットーレはどうしたかしら。そっきんかんぶはやれたのかしら」
「それだけか? 自分に惚れてた男に対して」
「ほかになにをいってほしいの。リボーン、おまえはコロネロじゃないわ。のぞむことばをはあげない」
ぎり、と歯を食いしばる。悔しさか、遣る瀬無さか、愛しさか、憎しみか。衝動がリボーンを支配する。出来るなら殴りたかった。叫びたかった。
「コロネロはのもちものよ。ぶかがひとりしんだからって、とりみだしてなんかいられない。とくにいまは、こうそうのまっさいちゅうよ。なげいてなんかいられないわ」
「てめぇ・・・・・・っ!」
「みくびるんじゃないわよ、リボーン。とコロネロをみくびらないで」
対峙する二人は、出会った頃は幼かった。13歳と7歳という、マフィアにしては異例の幼さを持っていた。リボーンは銃を突きつけ、童女は花束を差し出した。あの出会いから、もう12年。
「はラガツァをあいしているわ。そのなかにはもちろん、コロネロもふくまれるのよ。にあいされるということがどういうことか、おまえにわかる? はコロネロのあいにこたえたわ。のできるかぎりをもってして」
抱いた恐怖。震えた身体。初めて屈辱を味わった相手。揺るがされた自己は消えぬ傷跡となり、リボーンの中に存在し続けた。12年経った今も尚、形を変えて、緩やかに変わって。
「はファミリーをあいしているわ。リミニを、ラガツァを、にちゅうせいをちかったものたちを、それらすべてをあいしているわ。だからわすれずもっていくの。かけらものこさずもっていくのよ」
「・・・・・・っ」
「だけどリボーン、おまえはつれていかない」
女が初めて、リボーンに向けて笑みを浮かべた。嘲笑でもなく、挑発でもない、初めて目にする笑顔だった。
「リボーン、おまえはいきなさい。ドン・ボンゴレのそばでずっと」
「・・・・・・馬鹿野郎・・・っ!」
「ばかね、どうしてなくの。はまんぞくしてるのよ。それなりにおもしろいじんせいだわ。あとはドン・ヴェレーノをころすだけ」
俯いたリボーンの隣を過ぎ、前へ出てきた影に女は目を細める。膝をつき、頭を垂れて、骸は血に染まる手の甲に口付けを送る。
「・・・・・・共に戦えない僕を、どうかお許し下さい」
「いいのよ、むくろ。エドワードをたのむわね」
「はい。この六道に代えましても」
「ありがとう、いとしいこ」
右の瞼を一撫でし、女の手が骸から離れる。立つ姿は美しい。傷つき果てる直前の輝きが、彼女を神々しくさえ見せていた。笑い、女は戦いに赴く。
「さようなら、ボンゴレ。ラガツァファミリーのえいこうをねがって」
Arrivederci. そう言い残して、女は車に乗り、ボンゴレの屋敷を後にした。
抱かれていた闇が消える、そんな気配がした。
・・・・・・Arrivederci,Don Ragazza.
2006年8月12日