01.恋が終わるとき
心がざわめきを覚えた瞬間、手のひらのおしゃぶりが光を放った。鮮やかな緑はまるで最期の足掻きを見せるかのように、眩しく輝き、そして消えていく。リボーンはそれを見届け、乾いた唇を開いた。
「・・・・・・ヴェルデが、死んだ」
街はすでに夜と化し、閉められているカーテンの向こうでは静かな空間が広がっている。けれどもそれとは別のところで、今まさに戦争とも呼べる闘いが起こっていた。その犠牲となり、消えた、命。
「・・・・・・ラガツァは、ドン・ヴェレーノの屋敷にまで辿り着いたんだね」
「ヴェルデは直接戦闘には参加しないとはいえ、アルコバレーノだ。そこらへんの奴には負けねぇ」
「そう。じゃあコロネロが着いたんだ」
深い夜の中、ボンゴレの屋敷は静かだ。向かい合ってソファーに腰掛けながら、リボーンも綱吉もこことは違う場所を描いている。静謐の闇の中、今。
ラガツァファミリーとヴェレーノファミリーは、互いのすべてを懸けて、戦っている。
ドン・ラガツァとドン・ヴェレーノ。二人の確執が公になったのは、約三年ほど前のことだった。
何に端を発したのかは分からない。気がついたときには、すでに二人は互いを敵とみなしていた。嫌い合っているのでも、憎しみあっているのでもない。ただ、敵とみなしていたのだ。倒すべき相手と、互いに認識していた。そして両者の抗争は始まった。
頂点に立つドンが19歳の女とはいえ、彼女の発揮してきた手腕は確か。少数ながらも武力は一騎当千と言われているラガツァファミリー。
暴力を駆使してのし上がり、けれどその器は傑物。ドン・ヴェレーノがまとめる、今やボンゴレに匹敵するほどの勢力を手にしたヴェレーノファミリー。
手慣らしのように始まった小競り合いは、三年の時を経てファミリーすべてを懸ける大規模な抗争へと発展した。そして今夜、両雄がぶつかり合う。
遠くから銃声の音すら、感じる。
ボンゴレも今夜は厳重な警戒態勢を布いていた。ドン・ボンゴレの屋敷にはすべての守護者が集まっており、各地の拠点も迎撃準備を取っている。その中で綱吉はリボーンと二人、執務室へと篭っていた。カーテンを閉め切った部屋の中、ただ時が過ぎるのを待っている。
「・・・・・・ツナ?」
立ち上がった相手に、リボーンは訝しげに声をかける。もうすぐ40代に突入するというのに、その横顔は未だ幼さを感じさせる。けれど立派にゴッドファーザーを務める彼は、何かを見極めるかのように視線を一点に集中させていた。
「・・・・・・来る」
零れた言葉は、悲しみに満ちている。歩き出す足は迷いがない。
「行こう、リボーン。借りを返さなきゃ」
立ち上がれない漆黒のスーツの腕を掴み、綱吉は無理やりに引き上げた。握る指先が肩に食い込み、常にはない痛みをリボーンに与える。震えているのが自分で分かった。綱吉は歩く足を止めない。
「ここで会わなきゃ、彼女にはもう二度と会えない」
そんな残酷な言葉を吐かないでほしい。リボーンが柄にもなく懇願するのと、ボンゴレの屋敷に赤のマセラッティが突っ込んできたのは同時だった。
震える。怯える。乞う。願う。・・・・・・認めてやる。これは、俺の弱さだ。
2006年8月11日