06.月の祈り





15を過ぎれば、ドン・ラガツァはもう立派なレディーだ。社交場での振る舞いは言うに及ばず、立っているだけで大輪の華を思わす。嫌でも目を引く存在に、群がる輩は数多くいた。掃いて捨てるほどの見えすいた誘いを、童女は端から足蹴にしていく。
「ヴィットーレ、みた? きょうのパーティーのばからしさ。ていぞくなことにわらってしまうわ。まるでおみあいそのものね」
部屋に入る途端、髪を飾っていたリボンを解く。床に放られたそれを拾うのは、いつまでもヴィットーレの役割だ。
「ドン・ボンゴレもおかわいそうに。へたにどうめいをくんでいるから、ことわることもできないのね。かわいそうにドン・ボンゴレ。だけどはいいめいわくよ」
転がった靴は、デザイン性の高いハイヒールだ。細く繊細なそれを、童女はそつなく履きこなしている。
「そんじょそこらのあとつぎなんかと、がけっこんするとおもっているの。だとしたらあなどられるにもほどがあってよ。わからせるひつようがあるのかしら」
透明に近いストッキングは、びりびりと乱暴に破かれた。首元を飾っていたネックレスもベッドへ放る。時価何百万するのかなんて、童女は覚える気もないらしい。
「しゅういもうるさくなってきたし、こうなったらのぞみどおりけっこんでもしてやろうかしら。ボンゴレにしようか、キャバッローネにするか、せんたくしはやまのようね。がいるのはマフィアのせかい。せんりょくぞうきょうをはかるためのけっこんをまえに、りこんなんてとうぜんのことよ」
肩紐がするりと二の腕を伝う。床に落ちたドレスはデザイナーの一点物だ。ドン・ラガツァに惚れ込んで専属を願い出る者は、分野を問わず後を断たない。
「ヴィットーレ、おまえはどうする? がばーじんろーどをあるくとき、おまえはどこにいるのかしらね」
振り向いて童女は妖艶に笑う。下着しか身につけていないその姿は、さながら娼婦のようだった。けれど卑しさは欠片も感じさせない。屈服させる強さだけが、そこにはある。
伸ばされた指が男の頤をくすぐる。童女は笑い、踵を返す。残されるのはいつも、欲望の残骸だった。





僕の答えなど、貴女はとうにご存じでしょうに。
2006年8月9日