05.沈黙の情動
いざ対峙して、抱いたのは憎しみではなかった。そのことに冷静に驚いている自分に気づいた。自分はこんなに恩義の薄い人間だっただろうか。少なくとも感謝は感じている。だから不快を覚えると思っていたのに、それなのに。
「おまえ、しってるわ。マーモンね」
声に聞き惚れた。引きずられる。奪われる。鼓動が速まる。どうしようもない。全身が粟立つ。
「ボンゴレのヴァリアー、ざんざすのこがい。になんのようがあるの。いまさらざんざすのふくしゅうかしら」
赤銅色の髪、揺れる。濃碧の瞳、見つめる。白い肌、滑らかなラインの鎖骨、スカートから伸びる脚。検分するつもりはないのに、目がすべてを捉えてしまう。マントの下、手が震える。
「なんとかいったならどう? それともおまえ、にののしられにきたの?」
リボーンは恐怖を抱いたと聞いた。スカルは怖れたと。そしてコロネロは惹かれたと聞いた。自分はきっと何も感じない。そう、思っていたというのに。
「マーモン、なんとかいいなさい」
このうるさい心臓は何だ。必死で押さえているこの手は何だ。体の奥から湧き上がってくる衝動は何だ。
「マーモン」
吸い寄せられる。思考が乱れる。めちゃくちゃになる。削ぎ落とされる。
「マーモン」
すべてが消える。残るの、は。
堪え切れなかった情動に身体が動いた。
目深に被っていたフードを跳ね退け、鼻先が触れるまでに距離を縮めた。
濃碧の瞳が見開かれるのが見えて。
重なった唇に、己を知る。
囚われたのだと、気づいた。
一目惚れだとルッスーリアに説明された。驚くべきことに初恋だ。
2006年8月9日