03.死神の変動





ソファーで長い足を組んでいるリボーンは、今年で18になる。黒いスーツが嫌味なく似合うようになり、この世界にいるのにも不自然さがなくなってきた。もちろん彼は生粋のマフィアだけれども、容姿のもたらす印象というのは意外と大きいものだ。相変わらず自分の家庭教師を務めている彼を眺め、綱吉は口を開く。
「リボーン、おまえ愛人を切ったんだって?」
「・・・・・・あぁ?」
「ビアンキから聞いた。別れてくれ、って言われたって」
そう告げられて、かの人は最後に一度だけキスを強請ったという。自分にそれを伝える彼女は年を重ねた分だけ美しさを増していた。慰めなくていいのよ、今優しくされると好きになってしまうから。そう言って笑った彼女の傷心が浅いとは思わない。何せ18年も連れ添ってきた仲なのだ。
「マフィアは愛人を侍らせて一人前。俺にそう教えたのはおまえじゃなかったっけ?」
「飽きただけだ。下世話なこと勘繰ってんじゃねーぞ、ダメツナが」
「そう、俺はてっきりリボーンにも本命が出来たのかと思ったのに」
言葉を紡ぎながらも綱吉はリボーンから視線を外さない。マフィアという世界と出会ってから培ってきた観察眼は、ポーカーフェイスが常だと言われるリボーンでさえも見破れる。それを分かっているのだろう。殊更に表情を消している横顔に、綱吉は小さく肩を竦める。
「まぁいいけどね、おまえの恋愛だし」
「・・・・・・誰も肯定してねーだろうが」
「リボーン、俺がおまえと何年付き合ってると思う? 密度の濃さなら、きっとビアンキよりも上だよ」
否定できない返答に、リボーンは帽子の下で不機嫌そうに眉を顰めた。しばらくは綱吉のペンを走らせる音だけが部屋に響き、次にぽつりと漏れた声はリボーンの唇からだった。
「・・・・・・愛人が悪いわけじゃねぇ」
「うん」
「だけど、興味がなくなったのは事実だ」
「うん」
「抱く気がしねぇ。抱かれる気もねぇが、今はそんなことどうでもいい」
「うん」
「・・・・・・ツナ、俺は」
「うん」
ペンを走らせたまま綱吉は答える。顔を見るべきではないと思ったからだ。リボーンも見られたくないからこそ、レオンを乗せたままの帽子のつばを、鼻先まで引き下げている。身体はもう十分大きくなったのに、まるで子供のような仕草は彼の戸惑いを表していた。温かく微笑み、綱吉は優しく彼の背を押す。

「大丈夫だよ、リボーン。時間はたっぷりあるんだから、ゆっくりと向き合っていけばいい。おまえのそれは、喜ばしい変化だよ」

誰にとも、何にとも言わなかったけれど、十分通じていることを綱吉は分かっていた。リボーンはただ戸惑っているだけなのだ。今まで築いてきた自分自身の変異が信じられなくて、それでも気づかざるを得ないところまで来ているのを。受け入れるまでにはまだ時間がかかるだろう。もしかして初恋かなぁ、と書類にサインをしながら綱吉は思った。





リボーン、おまえはゆっくり大人になりなさい。
2006年8月9日