01.輪廻の願い





童女は少しずつ成長していった。劇的な変化はない。そこら辺にいる子供と同じように背が伸び、髪が伸び、手足が伸びていった。その度合いはいっそ笑ってしまうくらい、日常的なものだった。けれど変わらないものもある。ドン・ラガツァとして過ごす日々、挑発的な言葉、傅くファミリー。童女の中に巣食う闇は深く、それは止むことなく混沌を広げていった。



「貴女にもっと早く出会えていればよかった」
骸の言葉に、童女が顔を上げた。ふっくらとした輪郭はまだ幼さを残しているが、その中にも色艶が覗き始めている。まだ10歳になったばかりにしては艶めかしいその様子は、見る者に倒錯すら与えた。
「貴女にもっと早く出会えていればよかった。そうすればきっと僕は、ラガツァに入っていたことでしょう」
「あら、いまからでもおそくはないわ。いらっしゃい、むくろ、がかわいがってあげるわよ」
「10代目ドン・ボンゴレに従うと誓ったことで永らえている命ですから。あぁでも本当に、貴女ともっと早く出会えればよかった」
童女の舌足らずな口調は変わらない。容姿ばかりが大人びていく。童女自身も変えるつもりはないらしく、喋り出してからのギャップは年々大きくなっていく。
「貴女の息子に生まれたかった。父親になりたかった。兄になりたかった。弟になりたかった。祖父でも孫でもいい、貴女の一部になりたかった」
「ふふふ、よくばりなこね、むくろ」
「貴女の中にある闇に包まれて生まれたかった。そうすればきっと僕は、もっとまともな人間になれたでしょう」
「ろくどうはつらい?」
「ええ、時折自分の頭を撃ち抜きたくなるくらいに」
「ひょういだんで? ふふ、むくろ、おまえはほんとうにかわいいわ」
立ち上がる。エナメルの靴先はまだ丸い。ワンピースも首元をしっかりと包み込み、襟と袖口の白いレースが修道女を思わせた。伸ばされる指先を骸は享受する。透明なマニキュアで塗られた爪。
「ろくどう、むくろ」
近い目線、抱き寄せられる。頬が額に当たって熱が伝わる。この温かさも三年前に比べれば、少しは低くなっているのだろうか。
「おまえのろくどうを、いつかがもらってあげる。がすべてのみこんであげる。だいじょうぶよ、まってなさい、ぜんぶぜんぶもらってあげるわ」
「・・・・・・やはり僕は、貴女の息子に生まれたかった」
「かわいいこね、むくろ」
抱きしめてくれる闇は、温かく心地よい。目を閉じて骸は、それに浸った。

「愛しています、ドン・ラガツァ」

囁かれた言葉に、童女は唇を吊り上げて笑った。
愛して下さい、と骸は告げた。





貴女の海で眠れたらいいのに。
2006年8月4日