04.別離の予兆
子供の成長とは早いものだ。
三歳にはすでに「ヴィットーレ」としっかりした発音で呼ばれるようになり、四歳では共に外食をするようになり、五歳では一人で買い物に行く彼女を後ろから見守った。親以上に親らしいとファミリーの面々からからかわれるようになり、親馬鹿だな、とドン・ラガツァにさえ言われたほどだ。
「ヴィットーレ、が好きか?」
そう尋ねられたのは、彼女が六歳の誕生日を迎える前日だった。ベッドで寝物語を聞かせ、安らかな寝顔を少しだけ見つめてきた帰りに、ドン・ラガツァに声をかけられた。二人きりで話をするのは、ずいぶんと久しぶりのことだった。
「ヴィットーレ、が好きか? 妹としてでも人間としてでも、女としてでもいい。おまえはを愛しているか?」
答えに詰まる必要はなかった。
「はい。私はお嬢様を愛しています。この世のすべての存在として」
「誰よりも?」
「誰よりも、何よりも」
「のためなら何を敵に回しても?」
「はい。ドン・ラガツァ、あなたを敵に回しても」
「―――いい答えだ」
ふっと笑ったドン・ラガツァに、ヴィットーレは僅かに愕然とした。この人は、いつの間にこんな風に笑うようになったのだ。こんな、すべてを諦めるかのように。
「ヴィットーレ」
肩に手を置かれた瞬間、跳ねた体に気づかれたのだろう。ドン・ラガツァは眉をしかめて苦笑した。けれど穏やかな声で告げる。「家族になろう」と言ってくれた、あのときと同じように。
「ヴィットーレ、おまえはを守れ。たとえ私に何があろうと―――ラガツァファミリーに何があろうとも、だ」
何故か泣きそうな気持ちになりながら頷いた。
ドン・ラガツァの妻、サラがチェカッセファミリーと通じていると判明したのは、それから二ヶ月後のことだった。
11代目ドン・ラガツァ、あなたの存在に感謝を捧げます。
2006年8月4日