05.命の価値
ボンゴレのヘリコプターがラガツァの屋敷に到着したのは、ヴィットーレから電話があった約二時間後のことだった。機体から足を下ろした瞬間に分かる、張り詰めた空気。本当ならすぐに攻撃されても可笑しくないが、彼らは鋭く睨み付けるだけで武器に手をかけようとはしない。つまりまだドン・ラガツァによる命令は下っていないということで、それに綱吉は心中で安堵した。同時にラガツァ構成員の、童女への忠信をまざまざと実感する。
「・・・・・・よくものこのこと顔出せたな、コラ」
「・・・・・・コロネロ」
案内された部屋の前に立ち塞がっていたのは、綱吉も見覚えのある少年だった。黄金色の髪に、深い青の眼。端正な美貌が迷彩服のせいでしなやかな獣の印象に変わっている。ラガツァ入りしたという話は聞いていたが、実際に目の前にすると、何とも言えない気持ちが綱吉を襲う。この、敵を見据えるような眼差しが、自分に向けられるだなんて、考えたこともなかった。
「・・・・・・ドン・ラガツァの容態は」
「悪くなってたらテメーはここにいねぇ。今頃ボンゴレは壊滅してるぜ」
「・・・・・・XANXUSは」
「殺してぇぜ、今すぐにでもな」
吐き捨てて、コロネロは扉を開く。広い室内には薬品の臭いが漂っていた。大きなベッドの周囲で医師や看護婦が待機しており、コロネロたちに気づいた男が立ち上がって振り向く。穏やかで優しげな彼の雰囲気が、ここまで変化するのを綱吉は知らなかった。氷のような眼差しが、綱吉を貫く。
「どうやら、間に合われたようですね。ドン・ラガツァはまだお目覚めになられておりません」
「・・・・・・この度は私のファミリーの者が大変失礼をいたしました。謝って済むことではありませんが、出来る限りのことをさせて頂きたいと思います」
「でしたらXANXUS氏をお切りになることですね。私どもは今すぐにでも報復したいと思っておりますので、そうして頂く事が何よりもの償いです」
「ですがXANXUSも私の大切なファミリーの一員です。殺されることが分かっていて彼を切るわけにはいきません」
「では、どう落とし前をつけて下さるのですか? 同盟ファミリーのドンを殺そうとした輩に対し、ドン・ボンゴレは何も処罰しないと? あなたに頭を下げられたところで私たちの気が治まるわけがありません。あなたの命を捧げて頂いたところでそれは変わらないでしょう」
優しい人ほど、怒ったときが怖いという。ヴィットーレはまさにそれを体現していた。彼の言葉ひとつひとつに、これ以上ないほどの憤怒と殺意を感じる。それだけ大切なのか、この童女が。それだけの人物なのかと、綱吉は思う。
「・・・・・・それでも、俺は」
綱吉が口を開きかけたとき、部屋の空気が変わった。
ベッドの上で、小さな存在がうっすらと瞼を押し上げる。
その濃碧の瞳が映すの、は。
2006年8月3日