04.イドラとイデア





「はい、もしもし?」
ラガツァからかかってきた電話は、ドン同士のホットラインにも関わらず、ヴィットーレからのものだった。
『お忙しいところ申し訳ありません。ラガツァファミリーにてドンのお世話役を務めております、ヴィットーレと申します』
「あぁ・・・・・・沢田綱吉です。お久しぶりです」
『先日は人手をお貸し頂きまして誠にありがとうございました』
「いえ、こちらこそラガツァには大きな借りがありますから。何かありましたらいつでもおっしゃって下さい」
電話口の声の穏やかさに、綱吉は走らせていたペンを置き、ヴィットーレの人となりを思い出す。柔らかい金色の髪に、薄いブルーの目。手足が長く、まるでモデルのような容姿でありながら、骸曰く「笑顔で内臓をえぐり出す殺人鬼」らしい。嫌なことを思い出しちゃったなぁ、と唇を引きつらせている綱吉をよそに、ヴィットーレは話を続ける。
『先ほど、ラガツァの屋敷にボンゴレファミリーの門外顧問であられるXANXUS氏がおみえになりました』
「・・・・・・XANXUSが?」
ひやりと、背筋に緊張が走った。先日、彼と交わした会話を思い出す。あの時自分は、ドン・ラガツァの特異さを話したはずだ。敵に回したくないから同盟を組んだ、と言った自分を、彼は確か笑わなかったか。
『XANXUS氏の行動を報告させて頂きます。お約束もなく塀の上から現れ、ドン・ラガツァと多少の会話を交わした後、ドン・ラガツァに暴行を加えられました』
「・・・・・・っ!」
『ドン・ラガツァの首を掴んで持ち上げ、絞殺するがごとく力を込められました。ボンゴレは同盟相手ということもあり我々からの攻撃はドン・ラガツァによって止められていましたが、さすがにドン自ら反撃されました。その結果、ドン・ラガツァは窒息によりお倒れになり、XANXUS氏は毒により昏倒されました』
ざぁっと綱吉の血が一気に下がる。ヴィットーレの声が穏やかで落ち着いている分、その向こうの冷ややかな怒りを感じ始める。電話口なのにナイフを突き付けられているような、そんな感覚を覚える。心臓の音が早い。
『XANXUS氏の行動は、ボンゴレの総意と受け取ってよろしいのでしょうか?』
「っ・・・・・・ち、がいます! XANXUSの行動は、個人によるもので、」
『ではXANXUS氏への報復は、ファミリーを通さずに行ってよろしいのですね? 氏は我らがドン・ラガツァに危害を加えました。たとえボンゴレの門外顧問だろうと許されることではありません』
「待って! すみません、待って下さい!」
いてもいられなくなって立ち上がった。受話器を持つ手が震える。止めるべきことは分かっている。止めたいと思う。
「今すぐラガツァへ伺います。俺からドン・ラガツァに直接謝罪させて下さい。ですからお願いします。XANXUSの処分はそれまで待って下さい」
『・・・・・・僕たちが、あなたなんかの言葉に従うとでも?』
「―――それでもっ! それでも、お願いします! 今から行きます! お願いですから待って下さい!」
『・・・・・・僕たちはドン・ラガツァに従いますので、あの方がお目覚めになられるまでは動きません。ですがお目覚めになられましたら、ラガツァはあの方の望む通りに動きます』
「それで十分です! 今すぐ行きます!」
がしゃん、と音を立てて電話を置いて、そこらにかけてあったジャケットを掴む。乱暴にドアを開けて廊下に出ると、驚いているSPをよそに綱吉は叫んだ。
「獄寺君!」
「―――はい、10代目!」
すぐさま隣の執務室から、右腕が現れる。綱吉の焦り具合に何か問題が起こったらしいことを悟ったのか、彼の顔は険しい。
「XANXUSがドン・ラガツァを襲った。処分は保留にしてもらってるけど、早く行かないとヤバイ。車じゃ遅いからヘリを用意して」
「はい、すぐに!」
駆けていく獄寺を見送り、綱吉はSPを振り返る。
「今のは他言無用だ。それと骸に連絡を取ってヘリポートによこして」
「かしこまりました!」
二人のうち一人が駆けていく。ジャケットの下の銃、そしてグローブを確認して、綱吉もヘリポートへ向かった。屋上から見える空は、嫌味なくらい晴天だった。





どうして。そう嘆くおまえはきっと知らない。俺がずっとおまえのようになりたいと思っていたことを。
2006年8月3日