03.追憶に怯える獣
最後のゲームが開始してから、すでに30分は経過している。おやつの時間はとうに過ぎ、結局庭園にいた全員にチョコレートが一つずつふるまわれた。けれども童女の隣の席だけは、いまだ主を定めていない。息を弾ませて消耗戦に突入していた二人だが、彼らは同時に同じ方へと身構えた。一瞬遅れて他の男たちも、童女を守るように位置へつく。ほとばしる緊張の中、高い塀の上に見知らぬ男が立っていた。黒いコートと襟足についたフェイクファーが揺れる。
「・・・・・・てめぇがドン・ラガツァか」
男の声は低く、腹に響くものだった。物腰や威圧感から、只者でないことは容易に推測が立つ。
「だぁれ、おまえ。しらないひとね。ラガツァにむだんでおしいるなんて、ころされにでもきたというの」
「ふん、あいつが警戒するわけだな。こんなガキに何やってんだか」
童女は見上げ、男は見下ろし、互いに目を逸らさない。知らぬ間にライフルをその手に構えていたコロネロは、射殺すような視線で男を睨む。
「XANXUS・・・・・・!」
「ざんざす、きいたことのあるなまえ? しっているわ、どこかしら、ミラノのおかしやさんかしら」
「・・・・・・ボンゴレファミリーの門外顧問だぜ、コラ。一人で来るなんてどういうつもりだ?」
「青のアルコバレーノか。貴様がこんなガキに従うとはな」
「うるせぇ。テメーに関係ねぇだろ」
コロネロの鋭いまなざしにXANXUSはあざけるように鼻で笑い、一歩童女へと近づいた。ヴィットーレがナイフを構える。それを止めるのは、舌足らずな声。
「だめよ、ヴィットーレ、ボンゴレはおともだちだもの。ラガツァからこうげきしちゃだめ、せんてはあいてにゆずらなきゃだめ」
「・・・・・・ですが、ドン・ラガツァ」
「ざんざす、おまえはなにしにきたの。おちゃのじかんをじゃましにきたの」
「噂のクソガキを見に来たんだよ」
「もまけいぬをみれてうれしいわ。じゅうだいめドン・ボンゴレにやぶれて、こもんにおちた、おろかなこいぬ。しょせんうつわじゃなかったのね、じしんにおぼれたおろかなこいぬ」
亀裂が走ったのが、目に見えるようだった。ほとばしる殺気にコロネロとヴィットーレは攻撃を仕掛けようと構えるが、それも童女によって止められる。周りを囲んでいた男たちに手を振って、童女は自らXANXUSへと近づいた。一触即発の空気が流れる。向かい合う二人の身長差が滑稽なほどに。
「よくもまぁ、のうのうとボンゴレにいられるものね。もんがいこもん、ていのいいむかんけいしゃ。まわたでしめて、くびわをつないで。ドン・ボンゴレ、さすがね、ゴッドファーザー。みごとみごとな、なまごろし」
「・・・・・・死にてぇのか、てめぇ」
「おまえこそしにたいの。ここはラガツァ、のしろよ。おまえがをころすよりはやく、ラガツァがおまえをじごくへおくるわ」
それから先は、まさに一瞬の出来事だった。
抱く憎しみが破裂する。それは怒りか、それとも抱いていた悲しみか。
2006年8月2日