05.夜を告ぐ声
ドン・ラガツァは夜会に出ない。七歳という年齢、そして酒が飲めないことを理由としているが、そんなものは建前だ。本音は簡単。うっとうしいから出ないだけ。ラガツァは他者となれあうことを好まない。ドン・ボンゴレの妹分として周囲に認知された今、これ以上交友を広げる気などまったくないのだ。
「そういえばきょう、パパのゆめをみたわ」
赤銅色の髪に丁寧にブラシを入れながら、ヴィットーレは鏡越しにまなざしを返す。童女の丸い濃碧の瞳とかち合えば、彼はいつだって優しく微笑する。
「げんきそうだったわ。のことをほめてくれたの。がんばってるね、がんばってねって。ひさしぶりにパパをみたわ。あんなかおをしていたかしら。あんなにせがひくかったかしら」
「ドン・ラガツァが大きくなっていらっしゃるんですよ、きっと」
「ヴィットーレもパパにあいたい? それともあのおんなにあいたい?」
「そうですね、先代にお会い出来たら是非御礼を申し上げたいです。私がこうしてドン・ラガツァにお仕え出来るのも、先代が私をファミリーに加えて下さったおかげですから」
「そうね、じゃあつたえてあげる。ありがと、ヴィットーレ。あしたはふたつでみつあみにして」
「かしこまりました」
微笑んで了承を示し、ヴィットーレはブラシを置いた。それを合図に童女は椅子から立ち上がり、大きなベッドへと歩き出す。スリッパを脱いでベッドに上がれば、放られたそれをヴィットーレが並べ置く。温かく軽い布団を丁寧に肩までかけて、見上げてくる童女に夜の挨拶を。
「お休みなさいませ、ドン・ラガツァ」
「おやすみ、ヴィットーレ」
「お休みなさい。よい夢を」
小さな灯りを枕元に残し、部屋の電気をオフにする。見ていないと判っていても、ヴィットーレは一礼して部屋を後にした。時刻は午後九時。カーテンの隙間から昇り始めた月が覗き、こうしてドン・ラガツァの一日は終わる。
ヴィットーレ、つきがまるいわ。ほら、まんまる。
2006年8月1日