03.午前の七歳





ドン・ラガツァは学校に通っていない。就学する以前にドンの地位へ就いたため、隙の出来やすい学校は危険だと判断されたからだ。故に彼女は屋敷に家庭教師を招き、自己学習に務めている。
「Then, let's do here today. Please review and prepare the following chapter by next time today.」
「Thank you, Ms Giorgia」
イタリア語ではない、クイーンズイングリッシュ。まだ不慣れな感のある喋りだけども、ふくよかな女性教師はにっこりと笑った。
「ずいぶんお上手になりましたよ、ドン・ラガツァ。この分なら近いうちに英国歌劇などもご覧になれるでしょう」
「ほんとう? 、いちどみてみたいおぺらがあるの。マクベス。コヴェント・ガーデンにみにいきたいわ」
「実際の会話を耳にするのは格段に進歩へ繋がります。きっと完全にマスターする日ももうすぐですよ」
「ありがとう、せんせい。きっとせんせいのおしえがいいのね」
「もったいないお言葉です、ドン・ラガツァ。ありがとうございます」
深く頭を下げた教師に、童女はにっこりと笑みを向ける。そして小さな手のひらで、入り口近くのテーブルを指さした。載っているのは包装されず剥き出しの、缶に入ったクッキー。封の切られていないそれは、リミニでは美味しいと評判の店のものだ。
「せんせい、あれをあげるわ。いつもおせわになってるから、そのおれい。だんなさんと、むすめとたべて」
「よろしいのですか・・・? ありがとうございます、ドン・ラガツァ」
「いいの、じゃあまたあした、よろしくね?」
「はい。それでは明日、またお邪魔させて頂きます」
クッキーの缶を抱き、教師は何度も頭を下げて部屋から出ていく。三人がけのソファーでライフルの手入れをしていたコロネロが、銃身を磨きながら口を開いた。
「ずいぶん慕われてるみてーだな、コラ」
「リミニはすべてのものよ。めでてあげるのはとうぜんでしょう?」
「リミニ全部がラガツァの武器ってか」
にこりと笑い、童女はコロネロを振り返る。その足元は先日習ったワルツのターンだ。
「おぺら、おまえはねるかしら」
「さぁな。戦争物なら起きててやるぜ」
「それならしんぱいいらないわ。おぺらはたいていしにんがでるもの。だからすきなの。すくいがなくてすてきだわ」
くるりと回り、童女は笑う。
「Let's go together, Colonel.」





ヴィットーレ、つぎのせんせいをよんで。りかだったかしら、しゃかいかしら。
2006年8月1日