06.ゆりかご
抗争が終わり、狙撃者も発見され、事が無事終了した次の日の朝、ラガツァは同盟ファミリーの中で最も早くボンゴレの屋敷を辞した。建前は本拠を空にしてきたからとのことだが、本音はこれ以上くだらない茶番に付き合う気はないということだろう。昨夜の祝賀会では、これでもかというほどのドンに囲まれたのだ。早く帰りたがっても無理はない。綱吉も苦笑しながら許可を出し、早朝の帰還を見送った。去っていく小さな背中に安堵を覚えた自分自身に、彼は気づいていた。
「アルコバレーノとはなせなかったわ。ドン・ボンゴレ、だいじにだいじにかこってしまって。つまらないったらなかったわ」
帰りの車の中、幼い頬を膨らませて童女は呟く。
「、そんなにいじめたかしら。あれのよわいのがわるくはなくて? アルコバレーノ、マフィアのいみご。なかよくできるとおもってたのに」
「所詮は人の子ということでしょう。カルカッサのアルコバレーノも感じるところがあったようですし」
「ひどいわ、ひどい。どうしてかしら。はあれらがきらいじゃないのよ。たのしめるとおもっているのに、なんてつまらないおもちゃなの」
「今度、マフィアランドに足をお運びになられてはいかがですか? あそこにもアルコバレーノがおりますから」
「そうね、それがいいわ。あれはぐんじんときいているもの。きっともっとつよいはずだわ」
差し出された銀の器からチョコレートをひとつ摘み、童女は顔を綻ばせてそれを頬張る。
「こんかいはみんながんばったから、ごほうびにマフィアランドにつれてってあげる。しばらくそこであそびましょう。ほんきょならだいじょうぶ。ドン・ボンゴレにでんわして、ひとをよこしてもらうから」
今回、抗争への助力だけではなく狙撃からもドン・ボンゴレを守ったということで、ラガツァファミリーは手厚い御礼を受けた。そのことから考えれば、きっとドン・ボンゴレは人手を貸してくれるだろう。仲の良い兄妹像も焼き付けてきたため、周囲には妹に甘い兄の図で通るはずだ。
「そういえば、ドン・キャバッローネ」
童女の言葉に、ヴィットーレが顔を上げる。
「あれはいいわね、なかなかね。ずうっとをけいかいしてた。ドン・ボンゴレとにているけはい。ドン・キャバッローネ、なまえはディーノ」
「ドン・キャバッローネはボンゴレのアルコバレーノの生徒だそうです。ドン・ボンゴレとも10年来の知り合いとか」
「じゅうねん、じゅうねん。はまだうまれてもないわ。でもそう、だから、だからをけいかいしたのね。たのしそうなのにもったいない。キャバッローネはよさそうね。ボンゴレににたファミリーだわ」
そこまで話して、童女はふわぁとあくびする。朝方少し休めたとはいえ、ほとんど徹夜に近かったのだ。中身は特異だとしても、幼い身体は無理を訴える。ぱしぱしと長いまつげを瞬かせた童女に、ヴィットーレは優しく笑んだ。
「お屋敷までまだかかります。どうぞお休み下さいませ」
「そうね、、ちょっとねむいわ」
「到着しましたら御起こし致します」
「えいごのべんきょう、かえったらやるわ」
小さな手でまぶたをこすり、童女は履いていた靴を脱ぐ。ころりと車床に転がったそれを、ヴィットーレが丁寧に揃えた。赤銅色の髪の毛は、彼のスーツの膝に乗る。
「おやすみ、ヴィットーレ。きょうはありがと」
「お休みなさいませ、ドン・ラガツァ」
ナイフを握る手が、今はこれ以上ないほどの優しさで童女の髪をすいている。まもなく聞こえてきた浅い吐息に、男は甘い笑みを浮かべた。膝の上の温かな至福。胸を満たす至上の恍惚。触れる指先は止まらない。
「・・・・・・お休みなさい、お嬢様」
童女が闇だというのなら、これほど甘美なものはない。ラガツァファミリーはすべてのものが、この無二の喜悦で形成されている。
・という存在によって。
リーヌファミリー抗争編終了。
2006年7月27日