05.戦慄のダンスコール
ボンゴレとリーヌファミリーの抗争は、一日で決着が着いた。アジトをことごとく制圧し、刃向かう輩は慈悲なく切り捨てる。そうして獄寺と雲雀からドン・リーヌを拘束したと連絡が入ったのは、開戦式から25時間後のことだった。
「おめでとうございます、ドン・ボンゴレ! さすが見事なお手前ですね!」
「ありがとうございます。これも皆さんのお力添えがあったからこそです」
「リーヌファミリーはあまりに度を超えていた! 奴らの所業は目に余っておりましたからな」
「そうですね。我々マフィアとてそれなりのルールはある。それを犯したファミリーには罪を償ってもらわねばなりません」
若く優しげな風貌をしながらも、綱吉ははっきりと制裁を口にした。甘いだけではやっていけない。それをきっちりと学んだからこそ、彼はこの年でゴッドファーザーとまで呼ばれているのだ。
「しかし今回の功労者は、私よりもドン・ラガツァでしょう」
綱吉はそう言い、輪を抜けて一人掛け用のソファーへと向かう。大きなそれに埋もれるようにして座っている童女は、深夜を過ぎた時刻だというのに欠伸ひとつしていない。後ろに金髪の部下を引きつれ、常にドンとしての風格に溢れていた。
「ありがとう、。君のおかげでこの抗争に勝つことができたよ」
「ううん、おにいさま、がやくにたてたのならうれしいわ」
「そろそろみんなが帰ってくる。迎えに行こう」
差し出された手に、童女は両腕をまっすぐ伸ばすことで答える。綱吉はぱちりと目を瞬いたが、すぐに笑って抱き上げた。見かけよりも軽いのかもしれない。ワンピースの裾が揺れ、高い目線に童女が笑う。微笑ましい二人の姿に、他のドンたちも笑みを漏らした。
ドン・ラガツァという存在は、彼らに許容された。正確に言えば彼女ではなくラガツァの武力が認められたのだが、ファミリーはドンを無くしてそれを得ない。ましてやラガツァの面々が自分たちのボス以外に従わないことを、彼らはこの抗争で知ったのだ。故に画策する。この童女さえ取り込んでしまえば、あの素晴らしい武力が手に入る、と。
待機していた屋敷の玄関まで来れば、開かれたドアの向こうから大勢の部下たちが帰ってくるのが見える。先頭に立つ幹部たちを迎えるべく、綱吉は童女を抱き上げたまま玄関の扉をくぐった。
刹那、柔らかな金髪が彼らの視界を舞った。
キィンと耳に響く音がして、小さな鉄の塊が地面に転がる。綱吉は頭で理解するよりも先に童女ごと扉の影へと身を隠した。ヴィットーレの眼が鋭く、遠くの建物を睨み付ける。ざわついた周囲を黙らせたのは、舌足らずな高い声。
「しね」
それは童女を抱いている綱吉でさえ、身体を震わすような闇だった。
「そのちいってきにいたるまで、たえがたいくつうとひめいのなかでくちはてるがいい。たましいはえいごう、よみをさまよえ」
帰ってきたばかりの部下たちの中、300に近い男が膝を折る。
「ころせ!」
ラガツァは童女とヴィットーレを残し、その場から消えた。そうかからずに狙撃した相手を突き止め、目の前に引きずり出してくれるだろう。その際に人間の姿をしているかどうかは、ラガツァ以外の者には分からない。銃弾を弾いたナイフを収め、ヴィットーレは己の主を振り返る。
「お怪我はありませんか? ドン・ラガツァ」
「ないわ。ありがと、ヴィットーレ」
「ここは危険です。どうぞ中へ」
「・・・・・・うん、ありがとう」
綱吉も固く頷いて屋敷の中へと戻る。ボンゴレの者も我に返った獄寺の指示で数名が狙撃者の捕獲へと駆け出している。他のドンたちに注意を促し、部下たちに指示を与えている間も綱吉はどくどくと早く波打つ自身の鼓動を耳元で聞いていた。冷たい汗が背中を伝う。今、彼は初めて。
この腕の中の存在を、空恐ろしいものに感じていた。
恐ろしさと悲しさと、そして僅かの愛しさを抱く、よ。
2006年7月27日