04.胎動する闇の子





「簡単な話ですよ。ドン・ラガツァは人の闇に働きかけるんです」
抗争の最前線、リーヌファミリーのアジトの一つを潰しながら、骸は楽しげにそう語る。
「人は誰しも心の中に闇を持っています。どろどろとした汚い、人によっては深く底のないもの。それにドン・ラガツァは触れるんです」
「へぇ、だから坊主もあんなになったのか?」
「ええ。アルコバレーノはマフィアのために作られた人為的な存在ですからね。抱える闇は膨大なものでしょう」
山本の刀が走ると、目の前の敵が一掃される。上の階から聞こえてくる怒号や悲鳴は、おそらく骸によってもたらされている仲間での相打ちによるものだろう。銃だけを片手に握り、骸は山本の後ろを気楽に歩き続けている。
「マフィアなんて生き物は誰もが少なからず闇を持っています。ラガツァには特にそれが濃い人間ばかりが集まっている。このイタリアにいる限り、いえ、地球上に人類がいる限り、ドン・ラガツァの下僕は事欠かないでしょうね」
「坊主みたいに反発する人間もいるだろ? 後はツナみたいに折り合いをつける奴とか」
「アルコバレーノの場合は自分の闇を直視したくない、他人に土足で踏み込まれたくないという拒絶でしょう。ボンゴレとドン・ラガツァでは、どちらの闇が大きく強いか、そういった問題になってきます。操られるのも楽しそうですけどねぇ。あの小さな君臨者のために、それこそラガツァは何でもするでしょう」
「あぁ・・・・・・確かにあいつら、ちょっと変わってるもんな」
山本は刀を奮いながら、ここに来る前、ボンゴレの敷地で一堂に介した開戦式を思い出した。ゴッドファーザーである綱吉が挨拶し、その後それぞれの兵が自分たちのボスに見送られて配置に向かう際、ラガツァだけは異彩を放っていたのだ。彼らは童女に傅き、ただひたすらに命令を待っていた。今回はボンゴレの戦いだけれども、彼らの主は一人なのだという、固い意思の表れなのだろう。大の男たちが膝をついているその視線の先、童女はふんわりと笑みを浮かべ、彼らに告げた。『ぜんいんころしてね』・・・・・・と。
そして今、山本たちの無線には絶えず連絡が入り続けている。ラガツァの部隊が、続々とリーヌファミリーを殲滅していると。
「素晴らしいですね。ドン・ラガツァとは一度じっくり話をしてみたいものです」
「おいおい、小さい子をあんまイジメんなよ?」
「あのドン・ラガツァを子供扱いできるのは君くらいのものですよ」
笑いながら骸は、持っていた銃を自らのこめかみに突き付ける。戸惑うことなく引き金を引いた彼は、自らこの争いに参戦する気なのだろう。ばたりと倒れた仮初の死体に、山本は呆れたように頭を掻く。
「ここに放置したら後処理で巻き込まれるってのに。おーい、そこの奴、骸を別のとこに移しといてくれー」
「はい、了解しました!」
後ろで同じように銃を構えていた者たちが、二人がかりで死体となっている骸を運んでいく。抗争における彼の行動はすでに周知の事実なので、今更驚く仲間は少ない。一層騒がしくなった階上の気配に苦笑し、山本は刀を握りなおす。
「さーて。俺もラガツァに負けねーよう頑張るかな」
床を蹴り、目の前の敵に突進する。肉を斬る感触に、飛び散った血が頬につく。ざわりと湧き上がる興奮にも似た感覚。これが闇だと言うのなら、ドン・ラガツァは紛れもないマフィアの申し子だ。淡い戦慄を覚えながら、山本はエールを送る。

「負けるなよ、ツナ」





信じている。だけど彼女はあまりに酷い。あれがマフィアだというのなら俺は。
2006年7月27日