07.そして優しい海に抱かれる





もう12年。長い時間、それこそ彼の人生のほとんどを共に生きてきた。もちろんそれは家庭教師と生徒という役割があったからこそで、それは綱吉がドン・ボンゴレを継いだ今でも続いている。けれど自分の家庭教師が、最強のヒットマンと呼ばれている彼が、まだ子供なことを綱吉は知っていた。大きなベッドだと手足を丸めてでないと眠れない彼を、綱吉は知っていた。
「・・・・・・組むことにしたのか」
こんもりと山になっているシーツから声が聞こえる。すでに耳に馴染んでいるそれだけれど、よく聞けば声変わりはまだ完全に終わっていない。テーブルセットから椅子を一脚持ってきて、綱吉は枕元に腰を下した。
「『危険な相手は放っておくよりも、手の中で遊ばせた方が御しやすい』―――リボーンが教えてくれたことだろ?」
「・・・・・・一筋縄じゃいかねぇぞ」
「分かってるよ。だけどドン・ラガツァは良くも悪くも子供だ。まるでおまえの昔を見てるみたいに」
「俺はあんなにイカレてねぇ」
「俺からしてみれば、十分に規格外の子供ってこと」
笑いながらシーツの山を優しく撫でる。今は出会った頃のように、触れてもすぐに銃を向けられるということはなくなった。心を許されているのだと思うと、嬉しいと同時に面映くもなり、綱吉はやはり笑う。
「大丈夫だよ、リボーン」
かつては強さと無理難題の権化のように思えていたのに、今は慰めることを知った。弱いところも、傷を受けることも、彼にもちゃんとあるのだと理解している。信用はたぶんされているだろうから、今後は頼ってもらえるようになることが、綱吉の密かな目標だ。
「大丈夫だよ、リボーン。おまえがアルコバレーノじゃなくなっても、俺の家庭教師であることに変わりはないから」
ぽんぽん、と優しくシーツが撫でられる。
「おまえが暴走しかけたときは、俺がちゃんと止めてやるよ。もしもただの赤ん坊になったら、今度は俺が立派なマフィアに育ててやる。俺、これでも優秀な家庭教師に育てられてるから、結構自信あるよ?」
「・・・・・・テメーなんかまだまだだ、ダメツナが」
「うん、知ってる。だから俺の傍にはリボーンがいてくれなくちゃ」
穏やかに柔らかく、綱吉は笑う。そんな優しさが目の前の少年を融かしてきたことを、果たして綱吉自身は知っているのか。恐れることなく触れる手は、いつだって温かかった。

「俺に必要なのは、ドン・ラガツァでもアルコバレーノでもない。おまえだよ、リボーン」

子供をなだめすかすかのような声。本当は文句を言ってやりたかったけれど、リボーンはそれも出来なかった。優しく撫でられるシーツに包まり、漏れそうになる嗚咽を堪えるだけで精一杯だった。





ボンゴレ同盟編終了。
2006年7月26日