05.愛を語る唇





突き付けられる銃は二度目。それは前回と違わず眉間を狙い、安全装置は外されている。突き付けられているのは童女。突き付けているのは少年。
「リボーン!」
顔色を変えた綱吉にも、リボーンは腕を下さない。会談も終わり、帰り際のホールが緊張に張り詰めた。中心にいるのは童女と少年で、彼らは互いに目を逸らさない。愛らしい笑みに、リボーンの顔が歪む。
「リボーン、銃を下ろせ。これは命令だ」
「うるせぇ、ダメツナが」
「これはボンゴレのそういとうけとっていいのかしら。きょうのかいだんはむだだったのかしら。ねぇ、ドン・ボンゴレ?」
「違います、ドン・ラガツァ。部下が大変な失礼をし、申し訳ありません。お返事は日を改めて、私からさせて頂きます」
「ですって。じゅうをおろしてもらえる? アルコバレーノ」
童女の物怖じしない様子に、雲雀がヒュウッと口笛を吹いた。けれどリボーンはことさら不愉快になったらしく、トリガーにかけた指に力を込める。
「リボーン!」
「ドン・ラガツァ」
「いいのよ、ヴィットーレ。どうせこどものわがままだもの」
獄寺とランボが目を見開く。山本は苦笑いし、了平は首を傾げ、骸は憚ることなく声を上げて笑い出した。
「ばかなひと、リボーン。これでドン・ボンゴレはにおいめができちゃった。どうめいをことわりづらくなっちゃたわね。がきらいなら、ひとりのときをねらえばいいのに。それもわからないぶかなんて、ドン・ボンゴレはしつぼうしてよ?」
「テメーがツナを語るな」
「うちたいのなら、うてばいいわ。そのしゅんかんにあなたは、さいきょうのヒットマンのなをうしなうの」
童女のふっくらとした赤い唇が、まるで笑うように言葉を紡ぐ。それは毒のようだと綱吉は思う。彼女の言葉はすべてを絡め、取り込んでいく。舌足らずな高い声音は、童女の内なる闇からあふれ出てくる。
「すききらいであいてをころす、なんてしじょうにはしったひとなのかしら。それじゃあさんしたのマフィアとおなじね」
「・・・・・・黙れ」
「あなた、のなにがこわいの。なにがいやなの。ことばできらうよりもさきに、そのそんざいをなかったことにするの。なんてようち、わらっちゃう」
「黙れ」
「しってるわ。しってるわよ。あなた、こわいの。いままでじぶんがいちばんだったのに、それよりおさなくて、それよりつよくなりそうながでてきたのがこわいのよ。じぶんのたちばがおびやかされるから。だからこわいの。だからころすの」
「黙れっ!」
「さけぶよりさきにころしたらどう?」
両手を広げ、童女は招く。

「そのひきがねをひいたしゅんかん、あなたはアルコバレーノじゃなくなるわ。ただのばかでむりょくなあかんぼうに、うまれかわって、そしてしぬのよ」

パァン、という音がホールに響き、次いでシャンデリアのガラスが砕けた。降ってくるそれらから逃れ、両者は端と端に着地する。
「ドン・ラガツァ、お怪我は」
「ないわ。ありがと、ヴィットーレ」
抱かれた腕からひらりと舞い降り、童女は対面する少年に笑いかける。彼の左腕は山本によって拘束され、銃を持つ右腕は天井に向けられる形で、綱吉によって縛られていた。漆黒の目だけが憎々しげに童女を射る。人すら殺せそうなその威力に、童女は無垢に微笑みかけた。
「それじゃあ、ドン・ボンゴレ。よいおへんじをきたいしてるわ」
「・・・・・・お気をつけて、ドン・ラガツァ」
「ばいばい、アルコバレーノ。またあいましょうね」
ふんわりとした笑みを残して、童女とその部下はボンゴレの屋敷を後にした。残されたのは、毒の香りと傷つけられたプライド。押さえているリボーンの腕が僅かに震えていたことに、綱吉は気づいてしまった。





かわいそうなこ、アルコバレーノ。
2006年7月24日