04.カニバリズムの足先
メイドによって運ばれたのは、コーヒーではなく紅茶。横には美味しそうなチョコレートケーキが添えられており、童女は喜色に瞳を綻ばせる。そんな彼女に綱吉は笑みを浮かばせた。席を勧め、自身もテーブルにつく。
「互いに知っているとは思いますが、自己紹介から始めさせて頂いてもよろしいですか?」
「ええ、どうぞ?」
「私は沢田綱吉といいます。ボンゴレファミリーの10代目です」
「は・。ラガツァファミリーのじゅうにだいめ」
「さんとお呼びしても?」
「ドン・ラガツァとよんでちょうだい、ドン・ボンゴレ。はあなたのあいじんじゃないもの。なまえでよばれるりゆうはないわ」
「・・・・・・それは、失礼を致しました」
謝罪を口にしつつ、綱吉は内心で驚いていた。リボーンに代表されるように、子供らしくない子供には多少の免疫ができていると思っていたが、どうやらまだまだ甘かったようだ。そういえば癖のある女の子は初めてかもなぁ、と、思い返して納得する。
「ねぇ、ドン・ボンゴレ。このけーき、いただいてもいいかしら?」
「ええ。どうぞお召し上がり下さい」
「、ちょこれーとけーき、だいすき。しっててよういしてくれたのなら、ドン・ボンゴレはいいひとね。うわさどおりのやさしくてあまいひと」
童女の言葉に綱吉よりも獄寺の肩が震える。苦笑しながらまなざしで堪えるように言い、綱吉は童女へと視線を戻した。手のひらにすれば大きなフォークでケーキを食べる姿はとても愛らしいというのに、どうしてか一筋縄ではいかないらしい。こうなったら妙な策略は無しでいこう。策を弄すれば弄するだけ、こういった相手は信用を得難くなる。そう判断し、綱吉は直球で問いかけた。
「ラガツァはボンゴレと同盟を結びたいとのことですが、その理由をお聞きしてもいいですか? ラガツァは単独でも十分な戦力をお持ちのはずです。それなのに何故?」
「かんたんなはなしよ。ラガツァはたしかにつよいけど、はまだちいさいもの」
ぺろりと、小さな赤い舌が口端についたチョコレートを舐め取った。そんなところは子供らしいのに、と綱吉は思う。
「ドン・ボンゴレはこういってくれるだけでいいの。『俺はドン・ラガツァのことを妹のように思っているよ』、と。それだけでいいの。じゅうぶんよ」
「つまりボスが小さいからと舐めてかかる他ファミリーへの牽制になれ、と?」
「ラガツァないのはっぷんにもつながるわ。『俺たちのボスは小さい女だけれども、ドン・ボンゴレが認めた器』。そしてそれはうらぎりへのけんせいにもなる」
「あなたお一人でファミリーを統括する自信がない?」
「ばかなひとね、ドン・ボンゴレ。そんなのあるにきまってるでしょう? ほけんはいくらかけておいてもいいものよ」
ごちそうさま、とフォークは皿へと下された。小さな喉が紅茶に揺れる。片手で握り込めてしまえそうな細さだと、綱吉は思う。
「それでは、ラガツァからボンゴレへの見返りは?」
「ぶりょくのていきょう。いまボンゴレは、リーヌファミリーとなかがわるいってきいてるわ。こうそうがおきたさいには、ラガツァがちからになりましょう? できる、はんいで」
にこりと、童女が笑った。
「それとあかわいんをたくさん。リミニはわいんのめいさんちなの。ドン・ボンゴレのおくちにあうといいけれど」
「ありがとうございます」
にこりと、綱吉も笑い返した。
「お話は分かりました。部下たちと諮り、出来るだけ早くお返事させて頂きます」
「おまちしてるわ。きょうはきちょうなおじかんをさいてくださり、ありがとう」
「こちらこそ屋敷までご足労下さりありがとうございました。遠かったでしょう?」
「そうでもないわ。くるまのなかではさんすうのどりるをやっていたもの。かえりはれきしのほんをよまなくちゃいけないから、じかんなんてあっというまよ」
ぴょんっと童女が椅子から飛び降りた。その所作で綱吉は、彼女の足が床に届いていなかったことを知る。揺れる赤銅色の髪は、綱吉の胸元にも満たない。小さい、幼い童女。人形のように作り物めいた美しさと、まっすぐに歩む足取りに、綱吉の心が鈍く痛んだ。フォークを握ってケーキを食べたあの小さな手がすでに紅く染まっているのかと思うと、笑えるくらいに悲しくなった。
デフォルト姓は、温和王エドガーの息子エドワードを暗殺した継母エルフリーダより。
2006年7月24日