01.緋色の祝福
公的なパーティーも終わり、私室でごく側近の幹部らと飲み交わしていた綱吉は、己の家庭教師から放られたものを見て目を丸くさせた。山本や了平も綱吉と同じような顔をしており、獄寺と雲雀は僅かに眉をしかめている。紅一点のハルは、ひゃあ、と高い声を上げた。
「えー・・・と、リボーン。これは一体・・・?」
綱吉が受け止めたのは、一輪の真っ赤な薔薇だった。赤というには色が濃く、匂いの強さが違うものを連想させる。刺はすべて抜かれており、綱吉は茎をつまんでくるりと回した。
「おまえからの誕生日プレゼント・・・なわけ、ないよな」
「誕生日プレゼントだぜ。―――ドン・ラガツァからのな」
「「ドン・ラガツァ!?」」
驚愕の声を上げたのは獄寺とハルだけで、他は綱吉も含めて首を傾げている。リボーンは栓の抜いてあるワインを拾い上げ、乱暴に空いているソファーに腰を下ろした。
「『おたんじょうびおめでとうございます。できればらいねんは、どうめいファミリーとしていっしょにおいわいしたいわ』・・・・・・だとよ」
「ひゃあっ! ラガツァがですか!?」
「まさかドン自ら来たんですか!?」
「あぁ、ドン・ラガツァ自らだ。悪趣味な花束を俺に押し付けていきやがった」
「「・・・・・・っ!」」
獄寺とハルが息を呑む。リボーンの様子からして、そのドン・ラガツァが好ましい人物でないことは感じ取れたが、綱吉は件のボスを知らない。
「えーと・・・・・・ドン・ラガツァって、誰?」
罵られることを前提で尋ねたら、やはりリボーンからは射殺すようなまなざしを向けられた。けれど銃を持ち出されるよりも先に、獄寺とハルが説明してくれる。
「10代目! ラガツァはリミニに拠を構える中小マフィアっす! 人数だけならイタリアマフィアでも最低レベルの、拠点に閉じこもって出てこない田舎ファミリーっすよ!」
「三ヶ月くらい前に11代目が死んじゃって、今はその娘さんがドンを継いでるらしいですよー! でもその子がなんと、まだ子供なんてすっ!」
「子供?」
「はひっ! まだ10歳にもなってないって聞いてます!」
ハルの言葉に綱吉は目を見開いた。山本と了平も驚きに瞬きを繰り返しており、雲雀は一人手酌で酒を呑み続けている。瓶に直接口をつけていたリボーンはいまいましげに唇を拭った。
「ラガツァは確かに300人にも満たない極小マフィアだが、完全な武闘派だ。特に幹部はヴァリアーと同等かそれ以上だと言われている。先代は妻に裏切られて他のファミリーにやられたらしいが、生き残った娘が12代目を継いだようだな」
「ヴァリアーと同等!? 何でそんなファミリーが極小マフィアなんだよ?」
「さぁな。とにかく問題はそこじゃねぇ。奴らの申し出を受けるか否かってことだ」
帽子の縁から、リボーンのまっすぐな目が向けられる。ドン・ラガツァが本当に10歳以下だというのなら、リボーンよりも年下ということだ。そんな子供が、マフィアのドンをやっている。しかも女の子だというではないか。
「・・・・・・即断は出来ないよ。少なくとも会ってからじゃないと決められない」
「賢明な判断だな。ハル、連絡を取っておけ」
「はひっ!」
「それとラガツァとの会談には守護者を全員連れて行く」
「リボーン、何もそこまで・・・・・・っ」
「甘くみてんじゃねーぞ、ダメツナが」
ずいぶん久しぶりのあだ名で、リボーンは反論を切り捨てた。思い返すのは、赤い花束の向こうで笑った童女。あれはヤバイ。本能的な警鐘を鳴らさせる相手だ。綱吉ならば大丈夫だろうと思うが、警戒するに越したことはない。
「ドン・ラガツァはイカレたクソガキだ。食われたくなきゃ絶対に慈悲なんか見せんじゃねーぞ」
言葉よりも迫力に、リボーンがそういった言い方をしたことに綱吉は違和感を覚えた。けれど彼の言うことは大概正しいので反論はしない。手の中の薔薇を回しながら、綱吉はまだ見ぬドン・ラガツァに思いを馳せた。
かんぱいしておいわいしましょ。あなたとあたしがであえたきせきに。
2006年7月24日