03.翼なんかもってない





前を歩く小さな童女。まだ十にも満たない彼女を、誰がマフィアのボスだと思うだろうか。レースのワンピースはピアノコンクールの帰り故。手入れのされている赤銅の髪は、母親が毎日梳いてくれるから。スーツの男たちを連れているのは、良い家の一人娘だから。父親は心配性ね、なんて言葉も聞こえてきそう。開かれた公園の入り口で、ふと小さなエナメルの靴が立ち止まる。濃碧の瞳は、じっと公園の中に注がれた。
「・・・・・・お嬢様」
右斜め後ろで控えていた部下の言葉に、童女はぴくっと肩を揺らす。そして再び歩き出した。歩幅は小さい。大人の半分。だけど颯爽と振り向くことなく、突き進む姿は潔い。
「ドン・ラガツァよ、ヴィットーレ」
「失礼致しました、ドン・ラガツァ」
心から敬服し、見ていないと分かっていても頭を下げる。自分たちのために当然のはずの幸せを犠牲にし、頂点に立った幼いボスへ。感謝と愛情をもってして、自ら頭を垂れるのだ。



笑いあい遊ぶ子供たちの声を背に、ドン・ラガツァを乗せた車は走り出す。





背中の翼は自分でもいだ。
2006年7月21日