02.しげきぶつはあげてはいけません
は生まれつき身体が弱かった。心の蔵が悪いのだろうと、村の医者は言った。分かっていた。走ればすぐに息を切らし、田畑を耕すための鍬さえろくに振り上げることが出来ない。食べたくても食は細く、手足は肉がつかず、すぐに折れてしまいそうなくらいだ。歳を重ねるにつれ双子の姉との身体的な差が明らかになっていったからこそ、は自身が病に侵された身であることを理解せずにはいられなかった。姉であるいつきは、健やかで元気な少女だった。明るく笑い、野原を駆け回り、笑う姿は太陽のようだった。
羨んだことがないと言えば、嘘になる。どうして私が、と思わなかったと言えば嘘になる。いつだって憧れていたし、輝く笑顔の姉を見る度に誇らしいと同時に恨めしくもあった。けれどそんな嫉妬は、両親が雪崩に巻き込まれて死んだときに消し去った。
「おらが、を守るだ。の分までおらが働くから、大丈夫だ」
散々泣いて、散々父母を恋しがって、そして真っ赤に腫らした目でそう言ってくれた姉を、どうして憎むことが出来ただろう。葬儀の最中もろくに泣くことが出来ず、淡々と埋葬される父母を見ることしか出来なかった自分を、守ると言ってくれた姉。ありがとう。答える声は、やはり震えていなかった。けれど嬉しかったし、頑張らなくてはと思った。生きなくては。姉をひとりにしないためにも。その日から、いつきはの分まで外で働くようになり、はいつきの分まで家の中の仕事をするようになった。村の人々は、そんな幼い姉妹にとても優しくしてくれた。
生活は決して容易くなかった。奥州の冬は厳しく、一年の半分近くは雪に閉ざされると言っても過言ではない。田を整えて水を張り、稲を植えて収穫すればまた家に閉じこもらざるを得ない大雪に見舞われる。半年で食い扶持を稼ぎ、半年それを潰しながら過ごす。余分な蓄えなど持つことも出来ず、村人の暮らしは切迫していた。それでも尚彼らから搾り取ろうとする領主の振る舞いは、村人の心を荒ませ、追い立てるには十分だった。
国津神ウカノメが降り立ったのは極寒の夜だった。といつきは同じ夢を見、そして目覚めた姉妹の枕元には巨大なふたつの武器が置かれていた。いつきには槌で、には鋏だった。どちらも少女たちの背丈ほどの大きさがあったけれども、信じられないほどに軽く、それこそ花のように容易く片腕に抱えることが出来た。これで武士とも戦える。悲しみと願いがいつきの心に火をつけ、彼女は一揆を起こすべく立ち上がった。
同時にも喜びを抱いていた。これで、いつきの役に立てる。自分も足手まといにならず、戦うことが出来るのだ。その喜びは幼い少女の心を虚しい幸福に染め上げた。は医者から宣告された言葉を、ずっと抱えて生きてきている。姉にすら言っていない事実が、ひとつだけある。
おまえさんの心の蔵は、二十歳まで持たぬかもしれん。そう、医者は言っていた。
この鋏はいつか、わたしの首を刈り取る道具。
2009年12月6日