彼女について俺と幸村の話
「柳、おまえ最近、仲の良い女子がいるんだって?」
美貌と称されるに相応しい瞳を眇めて、幸村が楽しそうに笑う。柳は動かしていたシャープペンシルを刹那止めたが、苦笑しながら再開して今日の活動記録を最後まで書き込む。真田は遅刻してきた罰として走っている切原の監督をしており、他の部員たちはすでに着替えを済ませて退室している。部室に残っているのは柳と幸村の二人だけで、だからこそ話を切り出してきたのかと思えば、笑うしかない。
「耳聡いな」
「噂が駆け巡るのは早いものだよ」
「それは頂けないな」
「どんな子だい?」
「隣の席の生徒だ。家庭科部に所属していて、桑嶋は幸村も知っているだろう? 彼女の親友だ」
「へぇ、あの桑嶋さんの。彼女は余り誰かとつるむという印象はないけれど」
「交友関係を見ていると、そうでもないぞ。美人で成績優秀だからな。ハーフということで戸惑いの距離を置かれてはいるが、同性からは憧れられているようだ」
「そんな桑嶋さんの親友か。興味あるね。どんな子なんだい?」
「そうだな・・・。雰囲気が柔らかで、穏やかといった感じか。だが、天然というわけでもなく至って普通の性格をしている」
「ふうん」
「そして、交際三年目の彼氏持ちだ」
ぱちりと幸村が目を瞬く。その顔が見たかった。柳が意地悪く笑えば、幸村も気が付き相好を崩す。なるほど、と苦笑する様は好意的なものだった。
「彼氏がいるから、柳に興味がない。なるほど、それで柳も親しく出来るというわけか」
「ああ。気負わずに話すことが出来て楽でいい」
「それは羨ましいな。機会があれば是非俺にも紹介してくれ」
「そうだな、そのうちに」
幸村はその容姿やテニス部部長の肩書きも手伝って、柳以上に女子からの人気が高い。だからこそ容易く雑談できる異性の友人を作ることは難しく、本人もそれをよく理解していた。女子とは柳や幸村の想像外に生きている生物なのである。
柳の携帯電話には、の電話番号とメールアドレスが登録されている。それは部活や生徒会という関わりを除いて、柳が唯一私的な関係を築いている異性のものだった。
精市、おまえもきっと気に入るだろう。
2014年4月20日