彼女について俺たち男子の話





昼食はテニス部のメンバーと摂ることが多いが、生徒会室で仕事をしながら食べることもあるし、教室でクラスメイトと共に弁当を囲むときもある。今日は三つ目の選択肢に該当する日で、柳は男子の集団に混ざって弁当をつついていた。輪の中心になるようなことはないが、振られれば話もする。そうして和やかな時間を過ごしながら、柳はちらりと後方の席に目をやった。とアデルがやはりいつものように前後の席に座っている。昼はすでに食べ終えたのか、机の上に載っているのは相変わらずクラフト系の小物だ。家庭科部の二人が教室で何かを作っている姿はお馴染みで、時折女子が話しかけては楽しそうに雑談している。今日はが羊毛フェルトで三匹目の柴犬を作っており、アデルは完成している二体を指で突いて弄んでいた。途端、の手が止まる。
ニードルを手放した手が、制服のポケットから取り出したのは携帯電話だ。折り畳み式のガラケーを開いていくつか操作し、そうしてふわりと目元を綻ばせる。距離があっても分かる、柳の気に入りの愛らしい顔だ。彼氏からのメールなのだろう。いそいそと返信する様子はどう見ても恋する少女で、よしよし、と柳は自分のことのように嬉しくなる。放っておかれることになった柴犬未満は、アデルがニードルを握って続きを作成していた。
「柳、何見てんの?」
男子の一人が声をかけてくる。視線の先を追って納得したのか、他の男子も話に加わってきた。
「桑嶋さん、今日も美人だよな。金髪すげー綺麗。きっついけど。男に容赦ねーけど。でもそこがいい」
「いやいや俺としてはの方が好み。目立たないけど可愛いって。控えめっつの? そこがいい」
「柳はどっちが好み?」
「そうだな・・・。まぁ、二人とも友人として好ましい、ということにしておこう」
「何だそれ、意味深!」
余り言わないでね、と言われているため、に恋人がいることは教えてやらない。悪いな、と心中で謝罪しつつ、柳は唇の端を吊り上げた。目立って人気があるわけではないが、男子の中では中々に評価の高い二人だ。アデルについては置いておくとして、に関しては柳もその魅力を認めている。何と言うか、穏やかで、優しくて、健気で、けれども強かで、耐え忍び、ほのかな幸せを喜ぶことの出来る少女だ。何かに情熱を傾ける男が傍にいて欲しいと、支えて欲しいと、帰る場所になって欲しいと乞うような女でもある。話に聞いているだけだが東堂尽八という人物は、きっとそれにいち早く気が付き手を伸ばしたのだろう。惜しみない愛情を注いでいる様からも、彼のへの執着を感じられる。東堂の存在さえなければ、柳とてに好意を持ったかもしれない。だが、今の関係が居心地良いのも真実だ。恋人について話すを見るのは、柳にとって楽しみであり喜びである。
メールの返信を終えたのか、が携帯電話を机に置く。そして十五秒後、再び携帯電話が震えた。驚くべきレスポンスの速さである。再び画面を開いて、が笑う。その横顔が幸せそうで、よしよし、とやっぱり柳は満足に浸るのだった。





友人の幸せそうな様子は、俺にとっても喜ばしい。
2014年4月20日