彼女と彼女の遠距離恋愛の話
話し始めて一週間。ようやく柳はの恋人の名を知ることが出来た。東堂というらしい。東堂。東堂尽八。古風な名前だな、と柳が言えば、真田君には負けるよ、と返された。それもそうだ、と柳も頷く。
「学校が違うと会うのも一苦労だな。部活をしている人なのか?」
何気ない問いに、フルーツタルトは一昨日完成させたらしく、今日は柴犬を作りながらが首を傾げた。困ったなぁ、という表情に、おや、と柳は眉を吊り上げる。
「部活は、してるよ。柳君と同じように、去年は全国制覇をした運動部のレギュラーなの」
「そうか。それは大変だな」
強豪校として、練習の大切さは身をもって知っている。特に立海は休みという休みが存在しない。強豪校はどこもそんなものかもしれないが、だとしたら学校が異なれば会うのは難しくなってしまう。精々が夜に少しじゃないのか、と考えた柳に、は続けた。
「それに尽八君は寮に入ってるから。だから、うん、一ヶ月に一回会えればいい方かな? それも一日じゃなくて半日とか数時間とか、ね」
「・・・そうか」
先程の微妙な表情の理由を察して、柳は言葉少なに頷く。学校が同じなら部活が終わるのを待って一緒に帰ることも出来るだろうが、異なればそれも不可能だ。かといって土日の休みに会うには、強豪校レギュラーという点から難しくなる。練習で一日潰れるなんてことはざらにあるし、の性格からして無理に会いたいと言い出すこともないだろう。何となく柳は、自分も誰かと付き合う日が来たら、きっとこんな顔をさせてしまうのだろうな、と思った。それでもテニスに懸ける情熱を手放すことは出来ない。しかし恋人に寂しい思いをさせてしまうのは本意ではないから、きっとどうにかしたいと足掻くのだろうけれども。
「・・・嫌いになったりはしないのか?」
否の答えを聞きたくて尋ねた柳に、はその通り頷いてくれた。
「会えないのは寂しいけど、それくらいで嫌いになるつもりはないよ。尽八君が頑張ってるの知ってるし。それに毎日、メールと電話をくれるから。嫌いになる暇がない、かな?」
「ほう。毎日昼休みに携帯を弄っているのは、そのためか?」
「そう。朝一でメールをくれて、お昼にメールをくれて、放課後にメールをくれて、夜に電話をくれるの」
「・・・それを三年?」
「そう。凄いでしょう?」
「凄いな」
もちろん私からもメールするけど、とは言うが、柳は素直に感心していた。やや呆れてしまった、と言っても良いが。が東堂に告白され、恋人になったのは中学生になる直前だと聞いている。現在高校三年生らしい相手は、付き合い始めた直後に入寮したため気軽に会うことが出来なくなり、そこから三年。その間毎日のメールと電話を欠かさないというのは凄まじい。どうしたってなあなあになりそうなものだし、疲れていて忘れてしまうこともありそうなのに。非常に彼氏力の高い彼氏だな、と柳はまだ見ぬ東堂尽八という男に称賛を送った。もしくは彼がそれだけのことを想っているのか。
「会いたくなることもあるけど、でも邪魔はしたくないから。時々は、うん、我儘も言いたくなるけど、言ったら無理してでも叶えてくれるって分かってるから言いたくないの」
「出来た彼女だな。正直、彼氏が羨ましいくらいだ」
「そんなことないよ。嫌われたくないっていう気持ちもあるし。でもね、そういうとき、何でか気づかれちゃうんだよね。電話越しで凄く甘やかしてくれるの。そうされる度に敵わないなぁって思って惚れ直すばっかり」
「なるほど、これが惚気というやつか」
「ふふ、聞きたいって言ったのは柳君の方だからね」
盛大に惚気させていただきました、と笑うとて、きっと口にする以上に寂しかったり悲しかったり、時に涙したりもしたのだろう。けれどそれを押し隠して笑い、そうしてそんな彼女を見逃さず手を伸ばす東堂の機敏に、柳はほとほと感心するしかない。こんな二人だからこそ、三年にもわたる交際が続いているのだろう。その信頼関係は羨ましいの一言に尽きる。
「いつか会ってみたいものだな、の彼氏に」
どんな男か見てみたい、と言えば、は機会があればね、と照れくさそうに笑った。前の席ではアデルがストラップの金具を括り付けて仕上げに入っている。幸福の象徴でもあるクローバーとシロツメクサが、鮮やかな花冠を描いていた。
理想的なカップルに、羨みよりも称賛を送る。
2014年4月20日