元ネタはテニミュ比嘉VS青学より、「ダークホース(比嘉)」「一つやり残した事(佐伯)」「幕は切って落とされた(青学&比嘉)」です。





せっかくこうして全国各地から集合したのだから、交流を深めよう。誰がそう提言したのかは不明だが、かくしてホールに集まった中学生たち五十人は、何故か「王様ゲーム」をする羽目になっていた。何だこの現状、と思った輩がいないわけでもなかったが、こういったテンションは我に返ったら負けである。厳しいトレーニングの鬱屈を跳ね返すかのような勢いで、彼らは「王様ゲーム」に没頭していた。あれは完全に自棄になっていたよね、とはたまたまホール前を通りかかった高校生、入江の言である。





掻っ攫ってリアルをあげる





「それでは、十三番の人が所属する学校の選手全員で、寸劇でもしてもらいましょうか」
赤で「王様」と書かれた割り箸を勝ち取った木手が下した命令は、比較的まともなものだった。日頃の彼を知っているだけに、一体どんな強制罰ゲームで来るのかと身構えていた比嘉中の面々は、ほっと肩を撫で下ろす。他の中学生たちも自分の割り箸で番号を確認しては、周囲と「おまえ?」「いや違う」などと言い合っている。五十人も人間がいれば、それなりにうるさくなるのは当然だ。けれどそんな中で、澄んだ声が挙手と共に名乗りをあげる。
「俺だよ、十三番」
「おや、幸村君ですか。それじゃあ立海の皆さん、楽しい出し物をお願いしますよ」
「もちろん。王者立海に死角なし、ってね」
椅子なんてものは使わずに、ホールの絨毯に直接座っている中から幸村が立ち上がる。学校丸ごとの指名のため、ちらほらと立海メンバーたちも部長の元へと集まってきた。寸劇などお笑いを教訓としている四天宝寺ならともかく、他の学校ですぐさま出来るわけがない。木手も厄介な命令を下すものだと手塚は考えていたが、幸村の元へ駆け寄った切原はすでにその瞳を輝かせていた。
「幸村部長! 『死角なし』ってことは、まさかアレっすか!?」
「だったら『プラチナペア』にしようぜ、幸村君。俺とジャッカルが歌うからさ」
「いや、やはりここはストーリー性のある曲がいいだろう。王様の命令は寸劇だからな」
「えーっ! じゃあ『デッド・エンド』も『チェックメイト!』も駄目っすか!?」
「真田の『風林火陰山雷』から『手塚ファントム』への流れでいいんじゃないのか?」
「嫌だよ、真田にソロを歌わせるなんてつまらないじゃないか」
「幸村・・・っ! いや、おまえがそう言うのなら俺とて何も言うまい」
「弦一郎がソロパートを担いたかった確率、八十パーセント」
「大体、負けた試合を歌ったところで面白くも何ともない。もっと笑いを取れるので行かなくちゃ」
「そんじゃ『エクスタシー』? だけどあれを俺ら全員でやったら引くだろぃ、周りが」
「それなら氷帝戦か? だけどあれもなぁ・・・」
幸村を中心に、わいわいと立海の面子が相談を始める。声は潜められていなかったので、話はすべてホール中に筒抜けだ。菊丸と不二が揃って首を傾げた。
「『デッド・エンド』って何だろ?」
「『手塚ファントム』って、手塚の技だよね?」
「真田のソロ・・・。やべぇ、ちょっと見てぇかも」
「エクスタシーって白石やろ? まぁ立海がやったら引くわな」
「どういう意味や、謙也」
寸劇のはずなのにところどころに自分たちの名前が挙がり、命令を免れた選手たちは菓子を食べたりジュースを飲んだりしながら会話に耳を澄ましている。近くには寄っているものの、仁王などは参加する意欲がないのか黙って立っているだけだ。ジャージのポケットに両手を突っ込んで、眠そうに目を閉じている。ヒートアップしていきそうな話の勢いに、仁王の隣に立つ柳生が「まぁまぁ」と宥めに入った。
「王様は木手君ですから、やはりここは比嘉中にちなんだシーンが良いのではありませんか?」
「確かに、柳生の言うことはもっともだな」
「『殺し屋』?」
「やっぱ『バイキングホーン』だろぃ」
「いっそのこと『ダークホース』から六角の佐伯、『幕』のコラボでいいんじゃない? はい、佐伯取った」
「あぁっ、ずるいっす幸村部長!」
「仁王、ウォークマン貸せ」
差し出した手に、もそもそと仁王がポケットから取り出したウォークマンを載せる。丸井を経由して渡された真田が難しい顔で必死に操作している間に、立海メンバーは即席のステージへと移動する。やはり仁王はやる気なさそうだったが、柳生に手を引かれて渋々と従っていた。とりあえず五人がステージに上がり、横並びに立ち位置を確認する。向かって左から仁王、丸井、柳生、切原、ジャッカルだ。
「・・・私が木手君のポジションですか?」
「眼鏡だから柳生だろぃ? 赤也、そっち変われ! 俺が甲斐だっつーの!」
「俺が平古場さんっすか? まぁいいっすけど」
「ジャッカルが田仁志で、仁王が知念か。あながち間違っていない配役だな」
「―――注目!」
ぱん、と幸村が手を叩く。それだけでホールの会話が止み、すべての視線を集めるのだから流石は王者立海大付属の部長と言えた。にこ、と浮かべられる微笑は穏やかかつたおやかなものなのに、有無を言わせない威圧感までも放ってみせる。
「待たせてすまなかったね。王様の命令通り、これから立海メンバーで寸劇をお送りする。いや、劇というよりはミュージカルかな? 楽しんでもらえると嬉しいよ」
「おい幸村、氷帝戦ってのは何だ?」
「それはまたの機会があれば披露してあげるよ。今は全国大会の二回戦、青学対比嘉だ。・・・真田」
「あ、あぁ、大丈夫だ」
「それじゃ始めるよ。一曲目―――『ダークホース』!」
真田がボタンを押すと、仁王のウォークマンから音楽が流れ始める。はっと我に返って、四天宝寺の輪からステージの前へと駆け寄ったのは財前だった。あの財前が珍しい、と謙也たちが驚いている間にも歌は始まり、そしてそれは十秒も経たずに周囲の度肝を抜いた。数日前の、財前が「スピードスター」を聞いたときと同じように、誰もがあんぐりと口と目を見開いて衝撃のステージに見入っている。
何と言うか、どこか沖縄を髣髴とさせるようなメロディラインはまだいい。摩訶不思議なダンスもまだいい。腰をくねらせて一回転してみせる五人に四天宝寺から黄色い悲鳴があがったり、不動峰からジュースを噴出す音がしたりしたが、まだいい。しかし問題はやはり歌詞だった。それは明らかに比嘉中のために作られた歌だった。南の島から来た刺客だとか、沖縄武術を体得してテニスに活用しているだとか、俺たちはマーシャルアーティストだとか。挙句の果ては比嘉中最大の武器である「縮地法」がどんなものかまで詳細に歌われてしまって、逆に焦ったのは王様として命令を下した木手だった。何なんですかこれは、と我に返って叫ぶ前に曲は緩やかに終わり、ポーズを取った五人のうち、柳生と仁王とジャッカルがお役御免とステージから飛び降りる。
「二曲目は、えーっと、『一つやり残した事』!」
「何? やーは行かんばぁ? やっべ、沖縄の方言分かんねーし!」
切原が告げたのは二曲目のタイトルらしいが、丸井の発した台詞に反応したのは比嘉と青学の二校だった。聞き覚えのある台詞は、比嘉対六角の試合でひとりコートに残った佐伯に対して、甲斐が発したもの。あぁ、なるほど、そういう趣向なんだ。納得して笑った不二が手拍子を始めれば、菊丸や桃城など、乗りの良い面子も便乗し始める。次いでステージに軽やかに飛び乗ったのは幸村だ。
「・・・一つやり残した事があってね」
やはりこれも聞き覚えのある佐伯の台詞を放ってから、幸村も歌い、踊り始める。テニスは戦いだ、傷付けあわない戦い、の箇所で己の手首を握り締めて辛そうな表情を浮かべる所作は実に堂に入っており、マジでサエさんぽい、と六角中の天根が拍手した。ちなみに途中から参加してくる青学と思われるコーラスは、ステージの袖から柳と真田が担っている。曲の終わりの方では語り口調もあり、幸村はそれも忠実に再現してみせた。
「彼らは一瞬でネットの前に現れるわけではない。二次元的な動きで錯覚を」
「幸村君! それ以上比嘉中について語るのは止めてくれませんか!」
またまた聞き覚えのある台詞は縮地法の弱点についてのものだったため、今度こそ木手によって遮れた。そんなこんなしている間に二曲目は終わってしまい、いい加減楽しめるようになって来たらしくホール中に拍手が沸き起こる。氷帝では向日とジローが爆笑して転がっているし、跡部でさえも感心したように軽く手拍子を送っていた。三曲目のイントロが始まる前に、柳が審判らしくコールをする。
「これより二回戦、東京・青春学園VS沖縄・比嘉中の試合を始めます」
わらわらっと、立海メンバー全員が押し合いへし合うようにしてステージに上り、立ち位置を奪い合っている。
「真田は青学だろ。手塚やりなよ、手塚」
「俺は比嘉ー。ジャッカルは青学いけよ」
「仁王先輩は比嘉っすよね? んじゃ俺も比嘉で!」
「やぎゅ」
「大丈夫ですよ、仁王君。この歌の間だけですから」
「はいはい、真面目組が青学。フリーダムが比嘉だ」
「ならば俺は青学か。貞治の振りでもしてみよう」
ふたつに分かれて、向かい合うようにして対峙しあう。どんどんどんどん、とベースの音と共に新たな曲が流れて、思い出したかのように真田が「『幕は切って落とされた』だ!」とタイトルを叫んだ次の瞬間、歌が始まった。最初は青学パートらしく、真田・柳・柳生・ジャッカルが見事な歌声とパフォーマンスを披露した。対して次の比嘉らしいパートを担う側は、幸村がにこにこと笑い、丸井はピースを示し、赤也はにやりと唇を吊り上げ、そして仁王だけは相変わらずやる気なさそうに小さな声で歌っている。どんな手段も平気さ、と歌う様は面子も手伝って、非常にその言葉通りの憎らしさを感じさせた。サビの輪唱も音を外すことなく歌い上げ、尚且つ完璧なダンスまで披露して見せたそれはもはやこの夏の全国大会を歌っている以外の何物でもなく、すげぇ、とそこかしこで本気の拍手が送られる。どうもありがとう、とまるでアイドルのように挨拶をして、立海メンバーがステージを降りる。仁王が更に四曲目を流し始めたウォークマンを拾い上げ、音楽を止めた。拍手に迎えられて絨毯に座り込む立海の選手たちに、やはり問わずにはいられなかったのは手塚だった。眼鏡を押し上げ、眉間に皺を寄せて質問する。
「・・・幸村、今のは一体」
「細かいことを気にしていると禿げるよ、手塚。所詮は余興なんだから、面白かったならそれでいいじゃないか」
幸村のやんわりとしていて明確な拒絶に、それ以上は何も言えずに黙り込む。他からも質問やアンコールがあがったけれども、真田や柳でさえそれらを適当にあしらっていた。仁王は柳生の傍らで、ごろりと丸くなって寝ようとしている。
それ以降も続けられたゲームでは、違う曲を歌わせようと立海を指名したがる王様が続出したが、幸か不幸かそれは叶わず、たった一度きりの寸劇は彼らの中に強烈な印象を残して終了したのだった。





ぺてんしじゃーなんとでもいえー。
2010年9月18日