大蛇丸様51歳、カブト20歳、テマリ16歳、カンクロウ15歳、我愛羅13歳、君麻呂15歳
イタチ君、サスケ君、ついでにアンコさんへ
約一か月ぶりですね。皆さんは元気でお過ごしでしょうか? もしも元気じゃなくて任務に支障をきたしていたりなどして大蛇丸様に心配をおかけするようなことがあれば、僕が懲らしめに行きますので気を付けてください。くれぐれも君たちの師匠である大蛇丸様の名を汚すような行動は慎んでくださいね。くれぐれも、ですよ? 分かりましたね?
挨拶が長くなりましたが、僕と大蛇丸様は先日、無事に砂の里に到着することが出来ました。先の砂の里の暴挙による「木の葉崩し」から早二か月。新たな風影として指名された大蛇丸様は、その大任よりも里の外に出られるという事実に半信半疑だったようですが、ここへ来てようやく現実だとお認めになられたようです。知識としては知っていても、実際に砂漠に囲まれた砂の里を目の当たりにして大蛇丸様はぽつりと呟かれていました。「この世界には、私の知らないことがまだまだたくさんあるのね・・・」と。その際の横顔が少しだけ途方に暮れた少女のようで、いたいけで可愛かったのは僕だけの秘密です。いやぁ本当に可愛かったですよ、大蛇丸様。いやぁ本当に本当に。皆さん、一緒に来られなくて残念でしたね。僕だけがお供してすみませんねぇ。
まぁ、それはさておき。木の葉の里から派遣された余所者の風影として、砂の里から向けられる刺々しい空気はやっぱり予想通りの代物でした。そりゃそうですよね。自分たちが潰そうとして返り討ちにあった里から寄越された忍びを自分たちの長として認めなきゃいけないなんて、砂の里じゃなくても悪感情を抱いて当然です。まったく木の葉も大蛇丸様に厄介な仕事を押しつけてくれやがることです。
けれどそんな視線の中を悠然と進み、風影しか座ることの許されない椅子に当然のごとく腰を下ろされた際の大蛇丸様の凛々しさと言ったら、それはもう筆舌に尽くしがたいほどでした。長く細い足を組んで、ついと唇の端に笑みを乗せ、瞳を眇めたお姿はどんな姫君より美しく、支配者然とした風格に溢れ、僕だけではなく木の葉から着いてきた忍びたちの背を歓喜と畏怖で震わせました。ああ、この御方は間違いなく数日で砂の里をご自分の物とする。その確信に違わず、大蛇丸様は三日で砂の里を平定されました。頭の固い重鎮たちを黙らせて、不満の逃げ口を残すことで逆に人心を掌握し、さくさくと改革を実行しており、この分だと砂が木の葉に劣らない規模の里になる日も近そうです。砂の里の人々が大蛇丸様に対して「風影様」と呼びかける声に、尊敬が溢れているのもまぁ当然のことですよね。ふふん。
大蛇丸様が鹵獲し、共に砂の里へと連れ帰った三姉兄弟は、今は大蛇丸様の下で次代の施政者としてびしびし教育を受けています。長女のテマリさんはもともと姉が欲しかったそうで、大蛇丸様の強さと美しさに惚れ込み、先日は「お姉様と呼んでもいいですか・・・?」と問いかけていました。大蛇丸様は「示しがつかないから止めなさい」とお答えになられていましたが、しゅんとしてしまったテマリさんが可哀想だったのか、よしよしと頭を撫でていらっしゃいました。そんなテマリさんを中心として、砂の里にはすでに大蛇丸様ファンクラブが結成されつつあります。もちろん僕は名誉会員の地位をいただきました。会員番号零番です。
長男のカンクロウ君は、まだおっかなびっくりといった様子で大蛇丸様の傍を着かず離れずうろちょろしています。ちょうど思春期に差し掛かる年頃ですし、大蛇丸様を辣腕の風影として敬慕すればいいのか、止まるところを知らない魅力から女性として意識してしまって良いものか、きっと悩んでいるのでしょう。覚えのある感情です。ねぇ、イタチ君?
そして我愛羅君ですが、次代の風影になることが約束されている彼は、毎日大蛇丸様の傍ですべての業務について教えを受けています。言わずとも分かるでしょうが、彼は完全に大蛇丸様の虜です。大蛇丸様の後をよちよちと着いて回る様子は、幼い頃のサスケ君を思い出させて微笑ましくなります。我愛羅君はおそらく大蛇丸様に、母親の、姉の、恋人の、女性としてすべての顔を見出しているのでしょう。敬慕などという静かな感情ではなく、無垢だからこそ強い愛情を彼は大蛇丸様に捧げています。当の大蛇丸様は少年期一過性のものとしてあしらい、あるいは立派な風影として育て上げるためには利用できるくらいの考えでいらっしゃるようですが、うーん、これはどうしましょうかねぇ。今のところ害にはなっていないので、僕としては様子見でいいと思うのですが。まあ、可愛らしいヒヨコが狼に変貌しようものなら、それは砂の里が壊滅するときですね。ええ、間違いなく。
そんなこんなで大蛇丸様は砂の里を手中に収め、とても穏やかな日々を送られています。遠い木の葉にいるしかないイタチ君やサスケ君はさぞかしやきもきしているでしょうが、大蛇丸様に忍び寄る不穏な影はすべてこの僕が抹消しますのでご心配なく。君たちは木の葉で大蛇丸様のお屋敷を守り、大蛇丸様の名を更に高められるように修行に励んでください。年に一度は大蛇丸様と僕も報告のため木の葉に戻るので、その際に君たちがどれだけ成長しているのか確認したいと思っています。写輪眼、使いこなせていなかったらお仕置きですから覚悟しておいてくださいね? アンコさんはくれぐれも甘味を食べすぎないように。体重チェックもしますからダイエットにも勤しんでください。
それでは長くなりましたが、今回の手紙はこれにておしまいです。身体に気を付けて、食事は三食きっちり忘れずに摂ってください。面倒くさがらずに洗濯は少なくとも三日に一回、掃除は一週間に一回はするように。また大蛇丸様の近況を連絡します。では、三人ともお元気で。
カブトより
(追伸)
そういえば先日、砂の里の僻地見回りの際に、大蛇丸様がひとりの少年を拾われました。名を君麻呂という彼は、体内の骨を自在に操る血継限界、かぐや一族の唯一の生き残りで、その能力に目を付けた大蛇丸様は彼をご自分の持ち物のひとつに加えられました。あの御方は相変わらず、禁術や秘術といった類のものを探究するのがお好きですからねぇ・・・。すぐにひょいひょいと相手を魅了してしまうので、僕としては少し困り物なんですけれども。まぁ文句は言いませんし、ちゃんと育てますけど君麻呂君も。
そんな君麻呂君は色白の肌に少し灰色がかった髪を持つ美少年です。難病を抱えているようでしたが、大蛇丸様が禁術であっという間に治してしまったので、薄幸の美少年はすでに穏やかな雰囲気の美少年へと変わりつつあります。大蛇丸様に傾倒しているのは言わずもがなでしょう。戦闘能力の高さゆえ我愛羅君の組手の相手を務め、実力は、そうですね、アンコさんと同等か若干上くらいでしょうか。「いい子を拾ったわね」と大蛇丸様は満足そうですが、木の葉の里にこれが知れたらまた噂が広まりそうです。大蛇丸様は付き人を顔で選んでいる、と。まぁ大蛇丸様のお側に不細工を置く気はないからいいんですけれどね、僕は。
そんなこんなで君麻呂君にポジションを奪われたくなければ必死に修行してください、サスケ君。彼は優秀ですから、うかうかしてたら大変なことになりますよ。我愛羅君といいライバルが多くて大変でしょうが頑張ってください。それでは(^_^)/
月に一度、砂から木の葉へと届く定期郵便。
2011年5月4日