大蛇丸さん38歳、ナルト0歳
四代目火影、波風ミナトの子がまもなくこの世に生れ落ちようとしている。子の母であり、ミナトの妻であるうずまきクシナは、尾獣・九尾の人柱力だ。出産によってその封印が弱まっているのを、ミナトが一時も離れることなく傍らで維持しつつある。赤子が産声を上げるまでその儀式は続き、生まれた後はまた封印も元の強度に戻り、クシナの中で九尾は眠り続ける。そのはずだった。
だが、現実は異なった。うちはマダラの急襲を受け、九尾はクシナから引きずり出された。ミナトがどうにかして九尾をマダラの手の内には落とさせなかったが、それでも解き放たれた九尾は木の葉の里を襲った。九本の尾と、最強の尾獣の名に相応しい破壊力は里のすべての人間を絶望の淵へと追いやった。ミナトは四代目火影として、命を賭して九尾の封印を試みた。自らの魂と引き換えに九尾の陰のチャクラを封印し、陽のチャクラは生まれたばかりの息子であるナルトを人柱力とし、その小さすぎる身体に印を刻んだ。我が子に化け物を宿さなくてはいけない、その慟哭はどれほどのものだったのだろう。語る暇さえ与えられず、ミナトは、木の葉の英雄は、息を引き取った。同じく九尾の攻撃から息子を守って命を落としたクシナと重なり合うようにして伏す傍らで、彼らの息子はおぎゃあおぎゃあと泣き続けていた。
「随分と愚かな真似をしてくれたわね・・・!」
息を切らして、大蛇丸はうちはマダラを睨み付けた。うちは一族の創始者であり、初代火影と肩を並べ、ついには終末の谷で命を落としたとされている男がどうして今もなお健在なのか大蛇丸には分からない。不理解を謎解くことを身上としている彼女だが、今は怒りがそれを上回っていた。元よりうちは一族は、木の葉の里に完全なる忠誠を誓っているわけではなかった。その出自が火影争いに敗れた一族ということもあるのだろう。現当主であるうちはフガクがクーデターを目論んでいるという情報も、大蛇丸は暗部から得て、そして確たるものとしていた。だが、マダラの登場は計算外で、そして余りに許し難い。この男は殺害したのだ。木の葉の里を更なる発展へと導くだろうとされていたミナトを、その妻のクシナを。九尾を解き放ち、里に壊滅的な被害を与え、何より次代の火影と成長を楽しみにされていたナルトに化け物を刻み込むきっかけを作った。許せない。大蛇丸はぎり、と拳を握り締める。彼女にとってミナトは、直接的な弟子ではなかったが、認めるに足る四代目だったのだ。クシナとて、まるで妹のように娘のように可愛がっていた。それを、それを。
「口寄せ、穢土転生!」
印を組まずとも、膨大なチャクラに呼応して棺がふたつ現れる。いくつもの呪符が貼られた蓋がゆっくりと開き、そこから現れた姿に、マダラだけでなく、彼を逃さないように周囲に結界を張り巡らせていたアンコとカブトも目を瞠った。死者をこの世に蘇らせる、罪深き禁術。そうして召喚されたのは、波風ミナトとうずまきクシナだった。一日と経たない過去、死んだはずのふたりが、躯となって甦る。
『・・・大蛇丸様』
ミナトの、いつだって強く優しく、木の葉のために在った声が高揚に震えている。
「勝手に呼び出したことなら謝るわ。後で責任を持って還してあげるから、今は私の命令に従いなさい」
『まさか・・・! 生き返らせてくださったこと、感謝するってばね。あの男をこの手で葬れるなんて・・・!』
クシナの、いつだって柔らかく慈しみ深く、木の葉を抱き締めていた声が狂気に笑っている。
最後の最期まで、木の葉のために存在してきたふたりだからこそ、大蛇丸は死者に対する冒涜だと分かっていても呼び寄せた。おそらく特別な能力を有しているのだろうマダラに対して、勝利することが出来るのはミナトとクシナをなくして他にないと分かっていたのだ。
「あなたたちは死んだのよ。火影なんて肩書きももう関係ない。復讐鬼と化し、うちはマダラを殺しなさい! そいつはあなたたちの息子を苦しめる張本人よ!」
大蛇丸の命令に、マダラへと飛びかかったのはミナトよりもクシナが先だった。ここにいるのはもはや四代目火影と、その妻ではない。ただの男と女、そして父親と母親だけだ。息子に非情の苦しみを植えつけることになってしまった、無力を嘆き悲しむ親だけだった。
うちはマダラ終了のお知らせ。
2011年4月10日