大蛇丸さん37歳、カブト6歳





「おろちまるさま、おゆうはんのじゅんびができました」
浅い眠りに浸っていたが、気配には気が付いていた。だからこそ驚くことなく瞼を押し上げれば、大きすぎる割烹着の中で溺れているような子供の姿が見える。薬師カブトという名のその少年は、先の大戦において大蛇丸が今にも崩壊しようとしていた桔梗城から拾ってきた子供だった。見殺しにしても良かったのだが、彼女の直感が目の前の子供は優秀な忍びに育つと判断したのだ。だから抱き上げて連れて帰れば、やはり敵国の子として相談役は口うるさかったけれども、無理矢理に押し通した。私がどれだけ木の葉に貢献してあげたと思っているの、と問えば、上層部とて黙らざるを得ない。それだけ第三次忍界大戦は厳しく激しく、そして虚しいものであり、大蛇丸の禁術が重宝された戦いでもあったのだ。
大戦中に弟子としたアンコは、すでに一年間で十分に忍びとしての成長を果たした。戦わなくてはいけないという境遇が後押しした結果ではあったが、あの分ではそう遠くない月日で中忍へと昇格することだろう。今は通常のスリーマンセルに組み込まれており、時折非番の日にやってきては修行をせびるくらいになっている。だからこそ空いた時間を、大蛇丸はカブトの育成に充てていた。やはり才能があったのか、水を吸い込むように知識を蓄えていくカブトは、医療忍者への道が充当だろう。あればかりはセンスの問題なので、なろうと思ってなれるものではない。実際に大蛇丸自身も術はともかくチャクラを基にした医療忍術は使うことが出来ないが、彼女の場合はスペシャリストとされる綱手を真横で見てきた経験がある。教えることならば十分出来るし、知識だけは大蛇丸の中にもある。しかしカブトが真価を発揮したのは、忍術ではなく他の面においてだった。
「・・・あなたを拾って本当に良かったと思うのは、こういうときね」
食卓に並ぶ、ほかほかと美味しそうな湯気を立てているおかずを眺めて、大蛇丸は心の底から呟いた。白飯をよそいながら振り返るカブトは、料理だけでなく洗濯や掃除などの家事のすべてを引き受けてくれたのだ。もちろん六歳児ということもあって最初は凄惨たる有り様だったが、ここでも彼の学習能力は発揮され、一週間が経つ頃には普通の人間と同じくらいに、二週間が経つ頃にはプロの腕前になっていた。以前は使用人を雇っていたが、大蛇丸はそれらをすべて解雇した。カブトひとりで賄えて、しかも釣りが来るのである。
「おいしいですか? おろちまるさま」
「ええ、美味しいわ。いつもありがとう、カブト」
向かい合って「いただきます」と手を合わせて箸を取る。カブトはいつだって大蛇丸が食べ始めるまで、自身は箸をつけない。褒められて嬉しそうに顔を綻ばせる様はどうしてか修行で認められたときよりも喜んでおり、どういうことかしら、と大蛇丸は不思議に思ってしまう。しかし彼女に不都合は生じないので、結局はそのままだ。出来た弟子ね、と感心しながら大蛇丸は味噌汁を啜る。





時系列的に、弟子の順番はアンコ・カブト・イタチ・サスケとなる。
2011年4月10日