大蛇丸さん37歳、イタチ4歳





第二次忍界大戦から四年の月日を開けずに始まった第三次忍界大戦。五大国だけでなく国境付近の小国も巻き込んで始まった小競り合いは、泥沼の消耗戦へと突入していた。酷い戦いが連日続いた。朝見かけた人間が夕方に屍と化していることもざらではなく、それは忍びに限らず里の一般人まで巻き込んだ。うちは一族からも何人もの人間が駆り出され、そして帰らぬ人となっていた。そうして今もまたイタチの前で刀が振り下ろされようとしている。イタチ自身へと向かって。
「・・・子供?」
きぃん、と鋭い音を立てて刀を弾き、一瞬で目の前の敵を死体へと変えたのは細身の影だった。木の葉の額当てをしているところから同郷の忍びなのだろうが、その全身からは血の臭いが充満している。衣服が黒いから分かり辛いが、僅かに露出している腕は赤黒く汚れているし、黒く長い髪も固まって不格好になっている。声はまだ若い女のもので、イタチはただ突っ立って首を傾げる相手を見上げるしかなかった。なだらかな能面に細長い目と舌が描かれている蛇のような仮面をずらし、露わになった顔はやはり若く、美しい女のものだった。
「あら、うちはの子じゃないの。駄目よ、子供がひとりで出歩いたりしちゃ」
微かに吊り上げられた唇は赤く、血に魂ごと塗りたくられようとしていたイタチを一瞬で異なる色に染め上げた。反射的に薄く開いてしまった口元に女は笑んで、左手だけで印を組んだかと思うと蛇を一匹口寄せした。あっさりとなされた高等忍術にイタチが目を瞬いていると、女がしゃがみ込んで視線を合わせてくる。イタチから死角となる位置で、蛇が敵の死体を丸呑みした。
「この子に案内させるわ。良い子だから、おうちに帰りなさい。もう外に出ちゃ駄目よ?」
「・・・あなたの、なまえは?」
「仮面は暗部の証。いずれあなたが忍者になったら、また会えるかもしれないわね」
良い子、と掌がゆっくりとイタチの頭を撫でて離れた。次の瞬間には女の姿はすでになく、一匹の蛇だけがにょろにょろと舌先を動かしてイタチを見ている。こっちだ、とまるで先導するように動き始めた蛇に従い、イタチも森を後にした。
彼が彼女との再会を果たすのは、それから約一年後の話である。うちは一族が虐殺され、唯一残されたイタチとサスケの兄弟の後見となったのが、三忍のひとりである大蛇丸だった。





イタチさん、無意識に初恋したと思ったら相手が予想外に年上過ぎて後日びびる。
2011年4月10日