何!? 何なんだよ! マジでどうすりゃいいわけ!? つーか俺にどうしろと!?
でかいプールみたいな風呂場からダッシュで逃げる。何だよ、何なんだよ、あのセクシークィーンは!
いいの!? やっちゃっていいの!? あれも俺が魔王だからサービスの一環なのか!?
だったらせめてもうちょっと、もうちょっと親しみやすい美少女にしてくれれば良かったのにっ!
そう、例えば―――・・・・・・例えば、みたいな!





Self





バタンっ・・・・・よりも乱暴な音でドアが開けられたのは、俺がちょうど真っ黒な紐パンを履き終わったところだった。
何か頼りない。鏡に映った紐パン姿の自分に、大丈夫か俺、とか話しかけていたとき、いきなり扉が開いた。
「うわぁっ!」
思わずコンラッドの手から学ランっぽいのを奪って身体を隠す。ノックもしないで誰だよって思って振り向いた、ら。
「うわぁっ!?」
俺の二度目の悲鳴。ドアを蹴り上げるようにして現れたのは、女の子だった。しかもバスタオル一枚の!
さっきのセクシークィーンといい、この国は何なんだよ! バスタオル一枚で出迎えるのがこの国の基本なのか!?
あぁでも、この子はさっきのセクシークィーンほどボンキュッボーンではないかも。でも俺としてはこのくらいの女の子の方が好み―――・・・って何考えてんだ、俺!
「ウェラー卿! テメェ!」
バスタオル一枚の美少女が怒鳴る。あぁ、コンラッドの知り合いだったのか・・・・・・って、今の声は!
「うそ! まさか!?」
「うっせーよ、渋谷! テメェは黙ってろ!」
「何!? 何で黒髪!? あの金髪に近い茶髪はどこに!?」
「そこのセクハラ野郎にやられたんだよ! 髪洗ったら色が抜けやがった! シャンプーに細工してたに違いねぇ!」
「うっわ、俺、の黒髪って初めて見た! 中学に入学したときはもう茶髪だったもんなぁ」
「んなことはどうでもいい! ウェラー卿テメェ、どうしてくれんだっ!」
は風呂の途中で出てきたのか、まだ髪からも水が垂れている。
部屋を大股で闊歩してくるその身体は、バスタオル一枚。って、マジやばいって! 見える! そんなに大股で歩くとマジで見えるからっ!
あぁもう何だよ、このサービス! この世界ってどうなってんの!?
「テメェ! さっさとあたしの髪を元に戻せよっ! カラー液くらいあんだろ!?」
「あぁ、やっぱり陛下と同じ黒髪だった。その色の方が似合ってますよ。何故染めてたんです?」
「テメェには関係ねぇだろ! さっさと出せよ! マジで死にてぇのか、あぁ!?」
とコンラッドは、言葉が違うのに会話が成立してる。可笑しくないのが可笑しい。
「あなたが陛下と同じ世界から来られた証拠として、双黒であることを示しておいた方がいいんですよ。この国では双黒であるというだけで、十貴族以上の地位が与えられます。そうなればグウェンダルもヴォルフラムも強引な手段には出てこないでしょう」
「あぁ・・・・・・なるほど」
俺が思わず納得してると、コンラッドに詰め寄ってたがものすごい勢いで振り向いた。
美人なのに怖い。美人だから怖いのか? しかも今はバスタオル一枚だからいろんな意味で余計怖いし!
「えっと、コンラッドが言うには、この国だと黒い髪と目はすげぇ貴重なんだってさ。だからも黒髪でいた方が変な疑いもかけられないし、いい待遇でいられるからって」
「勝手に決めんな! あたしは待遇なんかどうでもいいんだよっ!」
「でも俺もさっき感じたけど、この城のやつ・・・・・・特にゴッドファーザー愛のテーマとウィーン少年合唱団OBは、かなり人間を嫌ってたみたいだし。髪なら元の世界に戻ってから染め直せばいいじゃん? だからさ、今は騙されたと思って」
「実際に騙されてこうなったんだよ! ちくしょう・・・・・・っ」
はコンラッドの胸倉から手を離し、また大股でドアの方に戻ってく。うあ、だから見えそうなんだって!
! この後に晩餐会があるらしいんだけど」
「出るわけねーだろ! テメェ一人で行け!」
「だよなぁ」
来たときと同じように、はバスタオル一枚のまま部屋から出て行った。
うーん・・・・・・なんて言うか。
「男前な女性ですね」
コンラッドに一票。



その後は晩餐会に行く途中で、今までの魔王の肖像画を見せられた。
俺はそこで魔族とやらの美的感覚がおかしいことを知った。だって初代と一緒に描かれてる、ちょっとかっこいい程度の男が「誰より美しい」と来たもんだ。
あぁ、これなら俺もかっこいいって言われるわけだよ。普通なら普通なだけかっこいいんだ。あはは、微妙に嬉しくない。
だったらはどうなんのかな。髪も黒くなったし、きっとも騒がれるんだろうなぁ。ギュンターとか、すげぇうるさそう。
「そうだわ、陛下。陛下はご友人の女の子と一緒にこちらの世界にいらしたんでしょう? その子は今はどうしてるの? どうして晩餐会に連れてきて下さらなかったの?」
セクシークィーン・・・・・・もとい、魔族似てねぇ三兄弟の産みの親である26代魔王、ツェリ様がにっこりと笑う。
俺が答えようとするよりも先に、ヴォルフラムが反撃した。
「母上っ! あの女は人間です! 本来ならこの血盟城に入ることすら許されない汚らわしい女なんですよ!?」
「あらぁん、ヴォルフ。でもその子は双黒らしいじゃない? それならきっと陛下にも劣らないような美しい女の子に違いないわ。ねぇ、陛下。あたくしその子に会ってみたいの。呼んでくださらない?」
にじり寄ってくるツェリ様。うう、ヤメテクダサイ。そんなナイスバディで近寄らないでくれ。
「あーいやー・・・・・・は人見知りするんで・・・」
っていうの? 大丈夫よ、あたくしもヴォルフたちもその子を虐めたりなんてしないわ。一人で食事するなんて寂しいじゃない? だから、ねぇ? へ・い・か」
三人の子持ちとは思えない若さで、パッチリウィンク。それに逆らえるほど俺は男が出来てないんだよ・・・・・・っ!
ごめん、! 本気でごめん!
「では、姫君を呼んで参りますね」
俺の視線を受けて、コンラッドが笑いながら席を立った。置いてかないでくれ、と思うけど、これから来るだろうの報復を考えるとそっちの方が怖いかもしれない。
あぁ・・・・・・俺、本当に魔王なのか? どう考えても敵わない敵の方が多そうなんだけど。
その後俺は、針のむしろみたいな晩餐会をひたすらに楽しまされた。



コンラッドが戻ってきたのは、俺がちくちく虐められてそろそろ針のさす場所もなくなるんじゃないかって頃だった。
時間にして約15分? 早かったような、遅かったような。いや確実に遅かったような!
とにかくコンラッドは戻ってきてくれた。まるで絵本の王子様のように開けたドアを押さえて笑う。
「遅くなって申し訳ありません。姫君の支度に少々時間がかかりまして」
「いいのよ。女の子の支度には時間がかかるって大昔から決まってるもの。さぁ、コンラッド。お姫様をあたくしたちに紹介して?」
「はい」
ツェリ様の手招きに、コンラッドは一度ドアの向こうに引っ込んでから、また出てきた。
うわ、すごいドキドキする。これはたぶん恋のトキメキ(はーとまーく)なんかじゃなくって、今後のの行動に対する不安のドキドキ(どくろまーく)だ。
頼むから、頼むからツェリ様にケンカなんか売らないでくれよ! 美女と美少女の対決なんて見たくない!
どうかが大人しくしててくれますように・・・・・・っ!
祈るように目を閉じてたら、パタンと扉の閉まる音がして。ほう、と誰かが溜息を吐いた音がした。
「こちらが、陛下と一緒に眞魔国にいらした姫君―――様です」
コンラッドの声に、おそるおそる瞼を押し上げる。きっとヴォルフラムとかすごい勢いで睨んでるんだろうなぁ、なんて思ってたのに。
ちらっと横目で見たウィーン少年合唱団OBは、その美少年な顔を何でか真っ赤に染めていた。
グウェンダルを見てみる。あ、眉間にしわがない。ツェリ様を見てみる。ぱっちりと目を瞬いて、すごく綺麗に笑った。
ちなみにギュンターは部屋の隅で奇声を上げてる。あの赤いのは・・・・・・まさか鼻血?
何なんだよ、一体。そう思ってドアの方を見れば、王子様コンラッドの隣に黒いドレスを着たが立っていた。
細い肩紐のキャミソールはフリルがいっぱいついていて、ワンピースになってるスカートは前はセーラー服と同じくらい短いけど、後ろの方になるにつれて長くなっている。
足元は黒いハイヒール。でもって膝上の網タイツ。首に黒いリボンが巻かれてて、それは髪にも同じように結ばれてた。
「うっわ、、人形みたい」
「うるさい。このゴスロリみたいな格好があたしの好みだと思ってんの? 第一あたし、来ないっつったよね?」
「・・・・・・・・ゴメンナサイ。すみません。押し切られました。ツェリ様の美女オーラに耐えられませんでした」
「それでも男かよ。食べたら帰るから」
「うん、ごめん。通訳はするから」
「知らない。適当に流しといて」
髪と服は黒、だけど肌は真っ白。見事なコントラストのは、コンラッドが引いた俺の隣の席―――俺とツェリ様の間に座る。
そんなの動きを追って、ヴォルフラムの視線もグウェンダルの視線もツェリ様の視線もギュターの鼻血も動いてた。
あぁ、そっか。こっちじゃ俺みたいなのが美形なんだっけ? じゃあなんか最高級の美少女なんじゃないのか?
そんなことを考えてたら、案の定ツェリ様は興奮した様子で手を叩いた。
「あぁんっなんて可愛らしいの! 名前はというのね? あたくしはフォンシュピッツヴェーグ卿ツェツィーリエよ。ツェリって呼んでちょうだい」
眉を顰めてるに、ツェリ様が言ったことを訳す。
はうさんくさそうにツェリ様を一瞥した。睨んでない・・・よな? だけど不機嫌なのは間違いない。
「この女がそこの三兄弟の産みの親? ずいぶん若作りしてんのね」
「はじめまして、です。ツェリ様はとてもお綺麗ですね、って言ってます」
「やぁん! あたくしなんかよりの方が綺麗よぉ。うふふ、あたくしずっと娘がほしかったの。どうかしら? 、あたくしの息子のお嫁さんになって下さらない?」
「なっ―――母上!?」
ヴォルフラムが慌ててる。あ、グウェンダルの眉間のしわも復活した。
。ツェリ様が三兄弟の嫁にならないかって」
「ふざけんな。あたしは性格の悪い男は好きじゃない。ついでに言えば自己主張のうざい男も嫌い」
「せっかくのお話ですけど、まだ知り合ったばかりですし私は人間ですから、って言ってます」
「そんなこと気にしなくていいのに」
の会話を柔らかく柔らかーく、ほとんど創作で伝えながら食事を続ける。
空になると注がれ続ける酒を飲みながら、そういえば俺って未成年だったっけ、なんて今更ながらに思ったり。
でも隣のは平然と酒を飲んでるし、まぁ今回だけは大目に見てもらうことにしよう。そんなことを考えてたら、給仕の人が俺とのところに来て尋ねてきた。
「陛下、魚と肉・・・・・・鳥類と哺乳類と爬虫類と両生類の、どちらを」
「へ!?」
思わず変な声をあげたら、が眉を顰めながら振り向いた。だけど、え、今何て言った? ワンモアプリーズ?
「魚と肉って・・・・・・鳥類と、哺乳類と、爬虫類と、両棲類・・・・・・? もしかして、それがメイン?」
「はい。お好きなものをお選び下さいませ」
俺の呟きに、給仕の人が頷く。それで何を聞かれているのか分かったのか、の顔がもっと歪められた。
思わず途方にくれてと顔を見合わせてしまう。鳥と哺乳類はともかく、爬虫類と両棲類って・・・・・・だってそれ、カエルやトカゲだろ? そんなの食うの? こっちの人は!
・・・・・・どれにする・・・?」
「魚」
「うう、安全牌を狙ったな。じゃあ俺は・・・・・・育ち盛りなんで、哺乳類を」
言ってみたはいいものの、どんな哺乳類なのかと思って聞けば牛だと言われた。胃袋が八つで、角が五本の最高級ビーフ。それはもはやビーフじゃないだろ!
運ばれてくるスープやオードブルは普通っぽく見えるけど、メインを聞いた後じゃこれらも怪しく見えて仕方ない。
給食の先割れスプーンでとりあえず食べてみる。・・・・・・食べられはする。材料だけは聞かないでおこうと勝手に決めた。
その間もツェリ様からは、地球に関する質問が山のように降ってくる。言葉の分からないは綺麗に無視して食べ続けてる。くそ、こんなことなら俺もアメフトマッチョに言語なんか引き出されなきゃ良かった。
何だか雲行きが怪しくなってきても、はずっと知らん顔。ゴッドファーザー愛のテーマによる新魔王、つまり俺のバッシングの間も、コンラッドが孤軍奮闘している間も、俺がヴォルフラムに怒りの一徹を食らわせたときも知らん顔だった。
でもさすがに俺がヴォルフラムに結婚を申し込んでしまったと知ったときには、顔を上げた。
綺麗な顔で、じっと見てくる。それに縋るように見つめ返したのに、結局は運ばれてきたデザートにまた視線を戻すし!
俺、マジで味方なし!? しかも今度は決闘まで受けちゃっててどうすんの!? 何なんだよ、この文化の違いは!
コンラッドとギュンターは作戦会議を始めるし、ツェリ様とグウェンダルはしみじみと何か話してるし。
はぁ・・・・・・俺、本当に魔王なのか? それにしちゃ敵が多すぎるって。あ、でも魔王だから敵が多くて当然なのか? 味方がいなくて当然なのか!?
さっさとデザートを食べ終えて部屋を出て行くが、去り際に呟いていった一言。
「結婚オメデトウ」
・・・・・・マジで味方がいないのかもって思った。





2006年1月8日