Last.虹は空に、愛は地に
新たな赤のアルコバレーノは、どこのファミリーにも属さないと広く噂が流れた。赤ん坊であることから姿は多々見られるけれども、一度として同じ人間とは共に居ない、隣に立った人間に明日はないと、怖ろしい噂まで立っていた。それでも最強の冠は伊達ではなく、頼んだ依頼は十割の確率で達成され、さすがアルコバレーノと密やかにマフィアたちは囁いた。赤のアルコバレーノはリリス―――本名を、・。血を浴びて笑い、男に夢を見させる、異端の赤ん坊だった。
彼女が誕生した選抜試験において、一人の「なり損ない」が出たことは知られていない。赤ん坊になれはしたけれども、適合は完璧ではなく、老いていってしまう身体。全身の半分に火傷を負った「なり損ない」は、チェルベッロの研究機関から逃げ出し、ボンゴレファミリーの門外顧問に保護された。その存在はイタリアマフィアの闇から闇へとへ葬られる。
虹はただ美しく、老いることなく、空に輝き続けるだけ。
「こんにちは。少しお時間、よろしいかしら」
崖の上から海を見ていたコロネロは、後ろから聞こえてきた声に振り向いた。自分と同じ身長の女がいる。シルバーブロンドの髪は潮風に揺れており、赤いプラスチックフレームの眼鏡越しに、緑の目が笑みを刻んでいる。肩にはピンク色の猫を一匹乗せており、首から提げられている赤いおしゃぶりが、今はコロネロのそれと同じように輝いていた。地味な女だとコロネロは思った。噂を聞いていなければ見過ごしてしまいそうな、群衆に埋もれる女。
「お初にお目にかかります。わたくしは・。赤のアルコバレーノですわ」
「コロネロだぜ、コラ」
「ええ、お噂は耳にしておりますわ。何でも素晴らしい軍人さんですとか。でも、ラルさんに育てられたのならそれも当然ですわよね」
出てきた名に、コロネロの腕がぴくりと震える。女はそれを見とめ、うっとりと唇を吊り上げた。艶やかに、赤ん坊は決して持ち得ないほどの淫虐を纏って。
赤のアルコバレーノは、恍惚の吐息を吐き出す。
「ラルさん、あなたへの愛に消えましてよ」
瞠られた青の目が映した感情に、女はふふ、と唇に指先を添えた。さよならのキスくらいしたかったですわよね、お可哀想に。そう言って、女は笑った。
全13話完結。お付き合い下さりありがとうございました!
2007年6月2日