8.コティヨンでトレロ
女が、・が「リリス」だと判明し、銃を向けていた男たちの中から、ついに引き金が引かれた。コルトM1917。アメリカの軍用回転式拳銃。ダブルアクションで装弾数は六発。ヒットマンの基本として、一、二、そして確実性を絶対にするため、三発目の弾丸が発射され、女に向かう。一秒もかからずに、弾は女の脳天を破裂させるはずだった。
「ぎゃああああっ!」
血を撒き散らしたのは、女ではなく撃った男だった。筋肉で出来ている腕が文字通り宙を舞い、ごとんという音を立ててテーブルにぶつかり、床に落ちる。シャワーのような赤い雨は女に向かって降り注いだ。シルバーブロンドの髪を染め、眼鏡を伝い、服に重みを加えていく。プリントスカートがぐっしょりと濡れていく様をラルは信じられない面持ちで見つめていた。今は、そっと下ろされている手。それが刹那動き、男の腕を掻っ切ったのだ。細く輝いた白銀を、果たして何人見ることが出来ただろうか。
「あぁ・・・・・・甘い」
ぺろりと、自身の手に飛んだ血を舌で舐め取る。それは怖ろしいほどの淫靡な仕草だった。ピンクよりも色の濃い舌が白い肌を這い、赤黒い液体をぺろり、ぺろりと絡み取り、綺麗にしていく。眼鏡は血に染まり、女の緑の瞳を隠していた。ぞっとする。男の絶叫はまだ止まない。
「素敵。ふふ、美味しいですわ。あぁ、わたくし興奮してきてしまいましたわ。お相手、して下さいません? ねぇ、お相手、して下さいませ。ねぇ、そこのあなた」
形の良い桜貝のような爪が、男に向かって伸ばされる。腕を切り落とされて錯乱している男は、血を振りまくだけで女の声など耳に入っていない。しばらくの間それを眺め、女は残念そうに溜息を吐き出した。
「・・・・・・悲しいですわ。その腕に抱きしめられ、突き上げられたら、どんなに気持ちがいいのかを、この全身で感じたかったのに・・・・・・」
残念ですわ、と女は力なく首を振った。指先が眼鏡の蔓に触れ、ゆっくりと外していく。髪に飛んだ血はすでに固まり始めているらしく、ぼろぼろと不恰好に欠片が落ち、そして。
女の眼を見た瞬間、ラルは力の限り床を蹴った。始まったのは、残りの候補者同士による殺戮だった。
赤い眼鏡が地に落ちて割れた。
2007年6月1日