2.スペクトルの宣告





目を覚ましたのはおそらく、その建物にいた人間全員が同時だったのだろう。そうでなければ目覚めて天井が初めて見るものであることを認識し、武器を手に身を構えたところでタイミングよく放送など入らない。耐性を持つ人間もいるため、個々に薬の量は違ったのだろうか。それはとても面倒な手順を踏んでいる。それだけの手間を惜しんで、彼らは集められていた。
『お目覚めになられた方は、ホールにお集まり下さい。繰り返します。お目覚めになられた方は、ホールにお集まり下さい』
若い女の声が無機質に流れる。部屋には寝かされていたベッドの他に机と椅子、備え付けのクローゼットが用意されている。ユニットバスが出入り口の傍にあり、館内見取り図は机の上に置かれていた。誰もが武器を手に、いつでも対処出来るよう身構えてからドアを開けて部屋を出る。廊下は白く細く長く、左右に並んでいるドアからも、向かいに並んでいるドアからも、武器を持っている人間が顔を出していた。上の階では銃撃戦が始まったのだろう。マシンガンの鳴り響く音、悲鳴、怒号、いくつもの足音がランダムに天井を揺らす。女の声がスピーカーから流れる。
『お目覚めになられた方は、ホールにお集まり下さい』
与えられている情報と状況が同じだと判断した者は、それでも警戒を怠らずに館内見取り図に従ってホールへと向かう。途中、弾丸やナイフが飛び、殺そうとしてくる相手を返り討ちにし、そしてまた歩き続ける者もいた。階段を降り、廊下を進む。白く細く長いそれを抜けて、開かれていた扉の向こう、円形のホールにはいくつも椅子だけが並べられていた。座りなさい、とまるで命令するかのように。
続々と人が集まってくる。手に持っている武器は様々で、中には服を返り血に染めている者もいた。ホールの入り口で力尽き、後続に踏まれた者もいた。圧倒的に男が多いけれども女も小数存在し、シルバーブロンドの女が入ると同時に扉が閉まった。死体が間に挟まれ、重圧によって潰される。
『皆様、ようこそお集まり下さいました』
女の声がスピーカーから流れる。姿は無く、ホールには窓も無い。白く殺風景な円形の部屋に、100人弱の人間が集まっている。互いを知っている者もいれば、まったく見知らぬ者もいた。ラル・ミルチは壁を背に、ショットガンを強く握る。ここがどこか、自分たちは何のために集められたのか、彼女は知っていた。告げられる言葉を待っていた。スピーカーは厳かに宣告する。

『只今より、八代目赤のアルコバレーノを決定すべく、選抜試験を執り行います』





それは、「呪われろ」という宣告だった。
2007年5月31日