邂逅ミステイク





何て言うかさー別に秘書さんと上手くいってないわけじゃないんだけど、向こうからしてみれば一年契約の派遣社員のくせに社長に気に入られて何いい気になってんの、みたいな感じなんだろうなー。確かに一年で去るのは否定できないからおとなしくしてようとは思うんだけど、でも社長に気に入られるのは私が中国語とロシア語とその他諸々が出来るからであって、それはどうしようもないんだよねー。っていうか秘書さんが中国語とロシア語を覚えてくれたら話が早いんだけどさぁ。職場では互いににこやかに笑いあってるけど、あーもう嫌だなぁ。でも一年契約だし、春で終わりだし、後ちょっとだから我慢しなくちゃ。あー面倒面倒面倒。とか思っていたら。
・・・・・・目が合っちゃったし。無視するのが一番なのに、がっちり視線が合っちゃったわよー・・・。最悪。でも人型っぽいし、話せば分かってくれるかも。っていうか分かって。仕事帰りで辛いのよ。これからコンビニご飯の予定なの。
「お互いのためにも無かったことにしない? 私ももう引退してるしさ、そっちも無駄な戦いとかしたくないっしょ? っていうかお腹減って眠いの本当。お願いだから無かったことにして」
背に腹は代えられないから頼んでみたら、目の合ったあやかしは、不思議そうに目を瞬いた。あー・・・後ろのアレ何、ショッカー? キーキー鳴いてるんだけど。
「へえ、あたしが見えるのか」
「見えるしあやかしだって判断も出来ちゃうのよ。結構やり手っぽいし、頼むからここはひとつ無かったことにして。頼むから本当」
「あんた、あやかし混じりじゃないね。だけどただの人間でもない」
「一応、元結界師」
「げっ!」
げって言った。何、もしかして烏森の関係者? 家を出てから遠ざかってたのに、この前帰って以来あやかし付いてる気がするわー。烏森が産んだ卵はまだ孵らないでクローゼットの上だし。
「結界師かよ・・・。せっかく城が壊れる前に逃げてきたってのに」
まとめてる髪をがしがし掻いてるあやかしは、外見だけなら私と同年代。逃げてきたとか不穏な単語が聞こえたけど、今の私には無縁無縁。
「じゃ、お互いにこれで終わりってことで」
「ああ」
言えば、あやかしは頷いた。話の分かるあやかしで良かったわー。進行方向も違うらしくて、さっさと帰ろうと歩き出すと、また声をかけられた。差し出されたのは・・・何、これ。花? 違う、種? 綿毛?
「やるよ。人間が好きな奴だったからさ、可愛がってやって」
「・・・害は?」
「あっても、あんたならどうにか出来るだろ。じゃあな、結界師」
「だから元だってば」
綿毛っぽいのを貰って、今度こそ別れる。あの背中の蜘蛛って刺青じゃないね。力の源・・・むしろ能力? それにしてもショッカーがキーキーうるさい。あーだけど戦わなくて済んで良かった。雪村を出てからは、あやかしに会っても素通りすることにしてるのよね。目を合わせないで「見えません」って振りしてやり過ごすようにしてたのに、今日に限って・・・。やっぱり疲れてるのねー。仕事だから仕方ないけど。
とにかくコンビニで夕飯買って、ついでに自分のためにデザートとか買って帰ろ。それにしても卵に引き続いて、あやかしっぽい花。変なものが増えてきてるわね、私の部屋。問題起こして追い出されないように注意しなくちゃ。





こうして卵から生まれたのが完全妖化した志士尾で、綿毛から実ったのが藍緋さんでした。
2011年8月21日