クソ兄貴が夜行を引き連れてきてから、烏森には全員で行って帰ってくることになっている。今までは家が隣の時音とも、志々尾、とも、学校で待ち合わせていたから、何か変な感じだ。黒芒楼はまだ来ねーし、今日も雑魚のあやかしを数匹片付けて帰ってきたら、ちょうど時音の家から姉が出てきた。帰ってきてるのは知ってたけど、顔を見るのは初めてだ。あ、そういやチョコのお礼言ってねーや。
「姉! まさかこれから帰るの!?」
「あー時音、お帰り。怪我してない?」
「してないけど、それよりこんな時間に帰るなんて危なすぎるよ。姉、自分が妙齢の女だって自覚あるの?」
「あるわよー。あるある。ちなみに美人だって自覚もあるわー。時音も私に似て良かったでしょ?」
「姉!」
時音が姉に食って掛かってる。確かにもう夜中の二時過ぎだし、女の一人歩きは危ないよな。特に姉、美人だし。時音とそっくりなんだけど、姉は髪を茶色に染めてるし緩くカールさせてるから、俺からすればすげー大人の女の見える。ワンピースもキラキラだし、とにかく美人だし、あれだ、テレビとか雑誌の中から出てきた芸能人みたいな感じ。
「・・・なぁ」
装束の背中を引っ張られて振り向けば、影宮と秋津と八重樫がこそこそしてる。
「あれ、誰だよ」
「姉だよ。時音の姉貴で、雪村の結界師で、兄貴と同じ年の」
「ほら閃ちゃん、やっぱりあの人だよ。夜中に頭領と話してたって人」
「頭領がご執心だっていう、あれか・・・」
「えっ、何だよそれ! 兄貴って姉のことが好きなのか?」
「噂だよ、噂。昨日の夜、頭領とあの女が庭で話してたのを夜行の一部が目撃してる。頭領があの女に携帯番号を聞いてたとか、『傍にいて欲しい』って言ったとか」
「マジでぇ!?」
思わず叫んだら、影宮に「うるさいっ!」って爪で刺された。いてぇ! マジでいてぇ! 額を押さえながら姉の方を見ると、何か夜行の男たちが姉に見とれてる。確かに姉、綺麗だもんな。何つーか今風な感じだし。あ。兄貴が邪魔で見えなくなった。
「、おまえもう帰るの?」
「帰るわよ。明日は月曜だし、会社だもの」
「だったら明日の朝に帰れ。こんな時間に出歩くな」
「正守、あんた私の父親? そこらへんの奴に私がやられるわけないでしょ」
姉が髪をかき上げると、ごくりって唾を飲む音が周りから聞こえた。何だこれ。見上げてみれば男たちの顔が赤いし。影宮も赤いし、秋津も八重樫も赤いし。相変わらず罪作りだねぇ、とか何とか斑尾が言ってる。
「烏森に挨拶に行くには、この時間しかないからね。嫌だけど、ホントむかつくけど、顔見せとかないと何されるか分かんないし」
「だったら俺がついていく」
「いらない」
「!」
「じゃあ白尾に来てもらうわよ。それでいいでしょ?」
「レディのボディーガードなんて光栄だぜ」
白尾がすーっと寄っていって姉の周囲をくるくる回る。時音はちょっと安心したように肩を下ろしたけど、兄貴は返って不機嫌そうな顔になった。え、マジで兄貴って姉に惚れてんの?
「時音、頑張るのはいいけど無理はしないこと。戦闘の助けは出来ないけど、何かあったらいつでも電話しておいで」
何かなくても大歓迎。姉の言葉に時音が嬉しそうに笑う。・・・俺の前じゃ、あんな風に笑わねーのに。
「美希、非番のとき暇だったら電話ちょうだい。ご飯食べよ?」
「ええ、連絡するわ」
姉、いつの間にか刃鳥さんと仲良くなってるし。でも兄貴は完全に無視だ。ざまーみろ。
「どっかとバトるのはいいけど、時音に何かあったら承知しない・・・って、正守に言っても無駄よね。よしー。よしもりー?」
「うあっ! 姉、俺ここ!」
名前を呼ばれてしゅぱっと手を上げれば、兄貴を横に押しのけて姉が俺の方に来た。うわ、時音の言うとおり、前に会ったときよりも綺麗になってる気がする。やっぱ兄貴、姉に惚れても望みないって。
「久しぶり、良」
「久しぶり、姉。あのさ、チョコありがと」
「どういたしまして。ちゃんと利にもあげるのよー?」
「・・・さ、三個くらいでいい?」
「あんたにしちゃ譲歩した方ね。良、時音のこと頼むわよ。守ってあげて」
「―――あぁ」
しっかり目を見て頷いたら、姉は満足そうに頷いて俺の頭を撫でた。何か、ものすごい子供扱いされてねぇ? 俺。
「ちょっと姉! あたしは良守なんかに守られなくたって平気よ!」
「あーはいはい。でもねぇ、弟妹を心配するのは年上の特権なの。良、時音のことを守りつつも、あんたも死んだりするんじゃないわよー?」
ぺしぺしと頭を叩かれる。時音も同じように一回叩いて、姉はひらひらと手を振った。
「それじゃあ夜行の皆さん、うちの子達をよろしく頼みます。白尾、行くよー」
「・・・」
「あーもう正守、あんた本当にしつこいんだけど」
最後の最後、嫌そうな顔で姉は振り向いた。
「九割義理で一割本気。『死ぬんじゃないわよ、幼馴染』」
「十割本音で、『この一件が片付いたらデートしよう』」
「120パーセント本気と書いてマジと読む。『年収二千万超えてから出直してきなさい甲斐性なし』。じゃーね」
はんっと笑って去っていく姉はものすごく男前だった。すげー。兄貴なんか目じゃないくらいにカッコイイ。時音もいつかあんな風になるのかな・・・。それって、うん、かなりいいと思う。
それにしても墨村の男は雪村の女に弱いのって、俺やじじいだけじゃなかったんだなぁ。
丑三つ時ロンド
(サイト開設六周年企画「あなたを想うということ」より。)
2008年8月15日