5.深夜二時に彼女の話





いつもは良守と二人で、最近は限君も一緒で三人だった夜の烏森に、今は大勢の人がいる。正直慣れないけど、仕方がないと割り切らなくちゃ。黒芒楼に備えてのことだから、これは仕方のないこと。
「良守、これ」
ときどき出るあやかしは、あっという間に夜行の人が処理してしまう。心底楽しそうだからいいんだけど、やっぱり複雑だわ。ここは雪村と墨村の守ってきた土地だから。
「何だよ、これ」
姉のお土産。利守君と食べなさいって」
「えっ! 姉、帰ってきてんの!?」
「私の姉をあんたが『姉』って呼ばないで!」
びしっと言うけど、良守はぶつぶつ「だってしょうがないじゃん。実の姉貴みたいに面倒見てもらったし」とか何とかごにょごにょ言ってる。だけど紙袋から取り出した箱の包装を見て歓声を上げた。
「カファレルのチョコセット!」
「何、有名なお店なの?」
「ベルギーチョコの専門店だよ! ジャンドゥーヤ! テントウ虫チョコ! 姉万歳!」
「言っておくけど、あんたのはおまけだからね。姉はあたしにチーズケーキを買ってきてくれたんだから、あんたはおまけ!」
箱を掲げてひゃっほーとか浮かれまわってる姿に言うと、良守はぐるっと振り返った。目がキラキラしてるわ・・・。こいつ、本当に甘いものに関しては別人なんだから。
「チーズケーキって、どこの!?」
「えっと・・・ラピュタ?」
「ル・ラピュタ!? すげえ、姉さすが! ・・・なあなあ時音ぇ」
「嫌よ、絶対あげない」
きっぱり切り捨てるけど、良守はしつこく食い下がってくる。ふぅん、チーズケーキも有名なお店なんだ。確かに姉は都会で働いてるし、一人暮らしだし、大手企業に勤めてるし、流行のお店とか知ってても不思議じゃないけど。・・・でも、なんか複雑。姉は自分に方印がなくて、あたしが正統後継者だってことを全然気にしてないみたいだけど、でも家を出て行っちゃったし。時々電話くれるし、あたしのこと気にしてくれてるし、可愛がってくれるから、良守と正守さんみたいにはなってないけど、でも。
「何、が帰ってきてるの?」
「兄貴!」
「正守さん」
うげって顔して良守が一歩遠ざかる。しっかり紙袋を抱き締めてるのは見事だけど、正守さんは相変わらず気配がなくてびっくりした。その後ろには刃鳥さんもいる。
「時音ちゃん、あいつ帰ってきてるの?」
「あ、はい。日曜にはまた帰っちゃうんですけど」
「へえ、元気だった?」
「はい。仕事も順調みたいで、今日もお土産にチーズケーキを買ってきてくれて」
ちらっと良守を見たら、紙袋をさらに抱き締めて正守さんを睨んでる。そんなことしなくても、正守さんはあんたからチョコを奪ったりしないわよ。
「刃鳥はもうと話した?」
「はい」
「どうだった? あいつ面白いだろ」
「そうですね。頭領の学生時代の所業などをたくさん聞かせていただきました」
あっさりと頷いた刃鳥さんは、あたしが仮眠から起きてきたときに姉と楽しそうに話をしていた。二人とも自立してる働く女同士、気が合ったみたい。話題が正守さんの貶しあいだったってことは・・・黙ってよう、うん。
「時音ちゃん、帰る前に話がしたいってあいつに伝えといてよ」
「分かりました」
「美人になってた?」
「はい、すごく」
「そりゃ楽しみだ」
肩を揺らして笑う正守さんと姉がどんな仲なのか、あたしは知らない。付き合ってるの、って聞いたら、姉はものすごい顔をしたけど、でも正守さんと姉の間って独特の雰囲気があると思うのよね。それとなく聞いたら、良守もそう感じるって前に言ってたし。お似合いだと思うんだけど、そう言ったらやっぱり姉はものすごい顔をした。嫌な思い出でもあるのかもしれない。
「・・・こんな性悪兄貴に付きまとわれて、姉が可哀想だ」
良守の呟きに、正守さんの笑顔がきらきら光った。さっきの良守とは違う意味のきらきら。びくっと怯えた良守がじりじりと後ずさっていくけど、正守さんがその分距離を詰めていく。
「良守、何か言ったか?」
「なななななな何でもねぇよっ!」
「そうか? 兄ちゃんは何か呟きが聞こえたんだが」
「ボケたんじゃねーの、クソ兄貴!」
・・・こういうところ見てると、ものすごく仲が良いように見えるんだけど。まるで子供みたいなやり取りに、刃鳥さんと溜息をついてしまった。





時音ちゃん視点。学生時代の姉さんは、時音ちゃんばりに何でも出来る優等生でした。
2011年8月21日