4.オフィスレディトーク





夜行は全部で百人くらいいるらしいけど、うちに泊まってる女の人は二十人弱。ってことは残りの八十人は隣に泊まってんの? うわーいくら墨守家が広いとはいえ、それは大変でしょ。良かった、うちは女性だけで。その中でも、時音に紹介してもらった夜行の2らしい、刃鳥さん。年は同じくらい? 涼やかな印象の美人。仕事の出来そうな感じが実に正守の好きそうなタイプね。
「こんばんはー。雪村の長女、です。妹がお世話になってます」
「刃鳥美希です。こちらこそこの度はお世話になります」
「あはは、全然気にしないでください。私はもう家を出ちゃってるし、月曜から仕事なんで日曜の夜には帰りますから」
紅茶を片手に隣に座る。それにしても、夜行も楽しそうな面子よね。一目見て術者だと分かる人もいれば、全然そう見えない人もいるし。
さんのお話は頭領からもときどき聞いてました。方印は出なかったけれど、術の技術は素晴らしいとか」
「あいつ自虐的なこと言ってますねー。って呼び捨てでいいですよ? 年、同じくらいみたいだし敬語もなしで」
「じゃあ、私のことも美希と」
お勤めまで時音がもう一眠りしにいったから、のんびり二人で会話する。夜行の中でも仮眠取る人がいるらしく、奥の間の並んでいる布団がちょこちょこと盛り上がってるわ。
はもう結界師ではないの?」
「んー結界術は使えるけど、うちの正統後継者は時音だし、いつまでも私が出張るのもねー。それに私、烏森って嫌いなのよ」
「烏森が?」
「そ。正守は憎んでるっぽいけど、私は純粋に嫌いなの。魂レベルでは離れられないんだろうけど、それってむかつかない? 私のことは私が決めるっつーの。それに私、烏森のせいで高校三年間、彼氏が出来なかったんだから」
「烏森のせいで?」
美希が首を傾げる。でもそれホントなのよ。告白してくる男子にオッケー出すと、絶対にその子はあやかしが見えるようになっちゃって、私が怖くなってお断りを入れてくるわけ。よくよく観察してみたらそれ、烏森の仕業だったし。いい加減にしてほしいわよね、まったく。
「ちなみに中学三年間は正守のせいで彼氏が出来なかったわ。これっぽっちも色気のないただの幼馴染だってのに、女ってのは厄介よねー。下の名前で呼ぶだけで『墨村君と付き合ってるの?』って何度問い詰められたことか。ちなみに苗字で呼ぶよう言ったのにあの馬鹿、ずっと名前で呼び続けたし」
「あぁ・・・」
「性根悪い男って最悪よね」
どうやら美希は正守の性格の悪さを分かってるみたい。それでいて付き従ってるのは理解に苦しむけど、まあ昔っから人望だけは集めてた奴だし、実力もあるし面倒見も一部を除いて良いわけだし、夜行の頭領もどうにか務まってるんでしょ。
「これ以上ここにいたら、いつか私、烏森の嫁になりそうだったもの。だから家を出たの。結界術は使えるけど、せっかく正統後継者じゃないのよ? これはもう世界に羽ばたけってことでしょ」
それなのに好き好んで捕らわれてるなんて、正守ってどうかしてんじゃないのー。小さく呟いたら、美希は僅かに目を伏せた。あいつに近い人間は、少なからず思うところがないわけじゃないのよね。特に良を前にした正守を見ると尚更感じるところもあるでしょ。
「お勤め、私は行かないから時音のことよろしくね?」
「ええ」
「ついでに良も。正守は放っておいていいから」
「分かったわ」
くすくす笑いあいながら紅茶を飲んで、チーズケーキを食べて。日付も変わってもうすぐ丑三つ時。時音たちが出かけている間に、のんびりお風呂にでも入ろうっと。





働く女同士、意気投合しました。
2011年8月21日