1.長女は時給2500円





起きたら何かカーテンの向こうがきらきらしてた。きらきら、きらきら。床の上の充電器から携帯を取れば、デジタル表示は朝の七時五十分。
「うーわー・・・完全に寝過ごした・・・」
やだうっかりー。呟いて携帯を戻して上半身を起こす。ああ、カーテンの向こうが眩しい。朝の光って破壊力大きすぎ。寝過ごすなんて、ここ最近なかったのになぁ。やっぱり昨日、接待の付き合いで貰ったワインを丸ごと空けたのが悪かったのかな。でも美味しかったのよねー。コンビニでチーズとクラッカー買って月でも見ながらとか思ってたけど、夜中にやってたドラマの再放送ずっと見ちゃって。やっぱりあれよね、一人暮らしって不摂生になるわ、うん。
「朝ご飯は・・・チーズでいっか」
昨日の残りのチーズとクラッカーと、冷蔵庫の中から取り出したトマトを丸齧り。時間ないし。時間ないし時間ないし時間ないし。お昼はきっとまた社長さんに付き合って外食だろうから、そのときしっかり食べることにしよう。今の派遣先の社長さんは、お昼も夕飯も奢ってくれるから助かるのよねー。しかもちゃんと時間外労働で時給も二割り増しだし。まぁ、通訳の私がいなければ会食が成り立たないってのがあるんだろうけど。ああ、語学やっといてよかった! 大手企業にも派遣されるほどのスキルを獲得した私万歳!
「服はー・・・昨日黒ワンピだったし、今日はベージュ? 白ブラウスにベージュのジャケットでいっか」
ゴールドのネックレスはさすがにしていったら拙いかなー。でもいけると思うんだけどね、社長さんは結構おおらかだし、取引先はたいてい外国企業だから服とか気にしてないみたいだし。問題は秘書さんだけど、たぶん平気でしょ。っていうか、一昨日秘書さんもゴールドしてたし。
「洗濯は週末で、掃除も週末で、あーもう奥さん欲しい! 稼ぎは十分あるから、誰か家事やってくれないかな!」
絶対幸せにするんだけどな。呟きながら顔洗って髪にドライヤーかけて、メイクは完璧、パンプスも履いたし鞄も持ったし携帯財布、忘れ物なし。ドアも窓も鍵は閉めてあるし、時間は八時三十分。始業まであと三十分。そろそろ出勤時間でしょ。
右手の人差し指と中指を揃えて、小さく「結」と唱える。浮かんだ長方形を通り抜ければ、そこはもう会社に一番近いコンビニの路地裏。結界術って素敵、万歳! 満員電車にも揺られずに着いた会社の入り口で、ばったり秘書さんと出くわした。
「おはよう、雪村さん」
「おはようございます」
あ、今日はパールのロングネックレス。秘書さんも結構稼いでるんだろうなー。大手外資系の社長秘書だし。とにかく今日も一日、派遣社員として頑張りますか!




雪村さんちの長女さん。
2011年8月21日