お気に召しませプリンセス





どうぞ、と差し出されたブローチに、は緩く首を傾げた。低い位置からはオルフェウスの選手のひとり、名の通り天使のように愛らしい容姿を持つ、それでもれっきとした少年のアンジェロが見上げてきている。大きな瞳は幾分かの期待を含んでおり、見つめられては手の中のブローチをそっと光に翳した。イタリアの水路に浮かぶゴンドラを刻んだカメオだ。繊細な造りはともすれば壊れてしまいそうで、乱暴に扱うことは出来ない。
「僕が作ったんです。よければ貰ってください」
「ああ、そういえばカメオ職人だったわね。大きな大会でいくつも賞を貰ってるとか」
「はい」
照れたように微笑むアンジェロに、は些か性質の悪い笑みを向ける。
「売れば、いい値段がつきそう」
「・・・監督がそうしたいなら、構わないです」
途端にしょぼんとアンジェロを取り巻く空気がしぼんで、しおしおと金髪の頭が俯く。天使の輪の輝きを見下ろしながら、は指先のカメオを眺める。貝殻から掘り出した細工はやはり端正で、これを作っているアンジェロの姿を想像して思わず笑みが誘われた。
「綺麗だし、可愛いし」
「・・・」
「高く売れそう」
「・・・」
「ねぇ、あたしのために作ってくれたの?」
意地悪な質問に、こくんとアンジェロは首を縦に振った。イタリアの街並みを模したカメオを身に着けてもらいたい。それはイタリア代表チームを纏める日本人である彼女への信頼か、一歩違えれば独占欲か。うふふ、とは少年の可愛らしい思慕にくすぐったくなる。
「仕方ないわね。あたしに似合いそうだし、貰っておいてあげるわ」
ピンを外してスーツの胸元につけようとしていると、アンジェロがぱっと顔を上げた。固定されたカメオを信じられないといった様子で凝視してから、その表情を限界まで輝かせる。ありがとうございます、と天使のように彼はお礼を言った。また作ってきてもいいですか、と尋ねてくるアンジェロに、も頷き返すのだった。





礼を言うところで相手に言わせるのが性質悪い。
2010年12月26日