暗殺一家として著名なゾルディック家の長男イルミ。
今まで言われたとおりに大人しく(?)仕事をこなしてきた彼が、突然不良になった。(キキョウ談)
彼の主張は一晩経っても変わらなかった。
と一緒にいたい。
ただそれだけである。
天使とピストル(ゾルディック家編)
どうしたものかの、とゼノは髭を撫で付けた。
屋敷のベランダに当たるこの場所には、さんさんとした朝日が降り注いでくる。
視界を飛んでいる鳥たちは平和の象徴のようだし、煌めいているように見える空は爽やかな一日の始まりに相応しい。
昨夜行われた家族会議のせいで些か寝不足な気もしたが、それくらいで疲労するような身体ではない。
「むしろ疲れたのは精神じゃの・・・・・・」
ふう、とゼノは溜息を吐く。
まさかイルがあそこまで頑固だとは思ってもいなかったぞい、と内心で思いながら。
好きだということに唐突に気づいたイルミは、そりゃあもうマイペースに輪をかけてマイペースに変貌した。
どうせ家を継ぐのはキルなんだから、自分はどうしようが構わないだろう。
仕事は今までどおりに引き受けるし、家にだって帰ってこいと言うのなら帰ってきたっていい。
だけどそれは全部が一緒じゃなければヤダ。
そう宣言した孫は、24歳という年齢には見えないほどに子供の顔をしていた。
フィギュアを壊すなと騒ぐミルキや、菓子が食いたいと喚くキルア、そんな彼らとさすが兄弟と言えるような。
わがままに駄々を捏ねるイルミは、ゼノの目に紛れもないお子様に見えたのだった。
「―――おお」
ふと意識の中に入ってきた気配に、ゼノは振り返った。
白んでいる太陽の光を浴びながら、ガラス張りのドアを押して、小さな影がベランダへと出てくる。
昨日は西洋人形のような真紅のワンピースだったが、今日は鮮やかな青を基調とした涼やかな着物。
銀色の髪はサイドをすくって後ろで結わかれ、まっすぐに背中へと下ろされている。
手に抱いているふわふわのクマのぬいぐるみが多少違和感を与えたが、それでも十分に可愛らしい日本人形がそこにはいた。
「早いの、お嬢ちゃん。その着物はカルのか?」
こくん、と頷きが返ってきて。
「カルが着せてくれたのか。うむ、似合ってるぞい」
そう言うと、は目をパチパチと瞬いてクマをぎゅっと抱きしめた。
その仕種がおそらく照れ隠しだろうとゼノはあたりをつけ、微笑ましく見つめる。
この小さな客人は容姿だけをとれば申し分ない。綺麗で可愛い、眼福もの。
念能力の詳しいことは知らないが、一度動きを制限されたことのある身としては、その実力を認めざるを得ない。
だから、自分としては別に良いと思うのだ。イルミがと一緒にいるのは。
まぁ、未成年淫行というゾルディック家にはあまり見られない罪状が、イルミにはプラスされるけれども。
がいることでイルミが気分よく仕事をこなせるのならよい。
そう考えたとき、ふとゼノは思い当たった。
当の孫はと一緒にいたいとわがままぶりを発揮してくれたが、もう一人の当事者はどうなのだろうか、と。
眩しそうに目を細めながら景色を眺めているを見下ろして、ゼノは口を開いた。
「お嬢ちゃん」
銀色の髪を揺らして、が振り返る。
「お嬢ちゃんは、イルのことはどう思っとるんじゃ?」
突然の質問に、髪と同じ色の瞳が大きく瞬きをした。
この早朝の逢瀬を境に、ゼノは完全にイルミの味方となる。
2004年9月8日