イルミの要求はただ一つである。けれど対するキキョウの主張は様々だ。
「俺はただと一緒にいたいだけなんだけど」
「何を言っているの、イル! キルがいない今、あなたがこの家を継ぐ身なのよ! それなのにこんな何処の馬の骨とも知らない女の子と一緒にいたいだなんて!」
「でも結局はキルが継ぐんだから、俺が誰と一緒にいようが関係ないよね」
「関係ない訳ないでしょう! あなたはゾルディック家の長男なのよ!」
余談だが、イルミもキキョウも念能力は操作系である。
『理屈屋でマイペース』というヒソカ特製の性格診断は、この場合も当たっているのかもしれない。
どこまでいっても平行線を辿る二人の遣り取りを、残るゾルディック家の面々は適当に聞き流していた。
ふわぁ、とがクマと一緒に小さく欠伸をした。





天使とピストル(ゾルディック家編)





ごしごし、と目元を擦るに、ゼノは笑みを湛えたまま尋ねた。
「眠たいかの、お嬢ちゃん」
問われ、は顔を上げてふるふると首を振るが、その人形めいた表情はどこかトロンとしている。
飛行船の中でも気を張り詰めていたらしい彼女は、幼くて体力も無いのだろう。
時計を見やればすでに夜の九時を回っていて、お子様にはお休み時間だとゼノは判断した。
変なところで常識を重んじる彼である。
「じゃが申し訳ない。もう少し付き合ってもらえるか?」
こくん、と頷きが返されて、けれどの腕の中のクマはすでに眠り始めていた。
ダミ声とべらんめえ口調が聞こえないのにどことなく安心し、シルバが聞き耳を立てているのを確認して、ゼノは問いかける。
「お嬢ちゃんは、確かイルミの依頼人だったかの」
こくん、とやはりは頷く。
その拍子に紅いヘッドドレスが揺れて、ミルキは思わずカメラを取りに自室へと走りかけた。
「イルに何をお願いしたんじゃ?」
小さな手が宙に伸ばされる。
ヨークシンシティにつれてってって
「ふむ、イルはそれを叶えてくれたか?」
銀髪が縦に揺れる。
ゼノは自分の髭を撫でつけ、首を傾げた。
イルミとキキョウは相変わらずマイペースに口論にもなっていない口論を繰り広げていて、残りの面々はとゼノの会話を見守っている。
控えていたメイドを呼び寄せ、カルトはココアを二杯言いつけた。
「では何故、今もお嬢ちゃんはイルと一緒にいるんじゃ? そもそもヨークシンシティに何の用事があったのか、教えてくれるかの」
問われて、は腕の中のぬいぐるみを抱きしめる。
もそもそとクマの両腕を動かして、躊躇っているうちに新しいココアが運ばれてきた。
の前に一つ、そしてカルトの前にも一つ。
ほかほかと立ち昇る湯気に気づいてが顔を上げると、カルトがこちらを見ているのと目が合って。
視線だけで『飲めば』と促される。
香りだけでも甘くて幸せになれるココアに、は目を細めた。
あのね、、かえりたかったの
細い指を宙に向けて、小さな文字を綴っていく。
「どこに?」
まえに、いたところ
不思議な言い方にシルバは目を細め、ミルキは眉を寄せ、マハも表情を変えたのかもしれないが見た目には判断が出来なかった。
カルトは片手でカップを持ち、ココアを啜る。
も両手で同じようにカップを持って、どことなく俯いた。
口にするココアは、甘くて苦い。
まだキキョウと口論しているイルミをちらりと見て、ゼノは溜息を吐いた。
何だか泣かしそうじゃの、などと考え、少しでもそれを防ぐためにテーブルの上に用意されていたクッキーの皿を差し出して。
そして、ようやく尋ねる。
「前はどこにいたんじゃ?」
五人の視線を受けながら、はクッキーに手を伸ばした。
けれど躊躇って途中で止め、そのまま指を宙に走らせる。
書き綴られた文字に、ミルキがまさか、と叫んだ。



――――――G・I





2004年8月9日