屋敷に帰ってきた家族。
そして一人の客人を前にしてキキョウは叫んだ。



「イル! 何てことなの! 私はあなたをロリータ趣味に育てた覚えはないのよ!!」



誰もがツッコミたくて、けれど出来なかったことをあっさりと言ってのけた彼女に。
さすが俺の妻だ、とシルバは妙な感慨を抱いたとか。





天使とピストル(ゾルディック家編)





小柄でしわしわの顔をしているのが、曾祖父のマハ。
『一日一殺』というモットーを下げている髭の老人が、祖父のゼノ。
お婆様は諸事情により欠席。
大柄で怖そうな雰囲気なのが、父のシルバ。
ふわふわドレスでヒステリックなのが、母のキキョウ。
長男は言わずと知れたイルミ。
次男は丸々太ったオタクなミルキ。
三男キルアは放浪中。
四男アルカは、やっぱり諸事情により欠席で。
着物を綺麗に着こなしたカルトが、ゾルディック家の末弟・五男。
以上を一息に紹介され、は首をかしげた。
五男?
「・・・・・・男だよ、僕は」
どことなく不貞腐れた様子で告げるカルトに、はクマを顔まで持ち上げて、ぺこりと小さく頭を下げた。



その一日を、ミルキは後になってこう振り返る。
『いなかったキルが羨ましかった』・・・・・・と。



しん、と静まり返った広間にて、彼らは席についていた。
メイドによって湯気の立った紅茶が並べられ、けれどの前にだけはイルミの指示によってココアが置かれる。
にこっと微笑むに、用意したメイドも釣られて笑みを浮かべてしまった。
けれど長居は死に直結する現状を悟り、ワゴンを引いて足早に部屋を出て行く。
残されたのはゾルディック家の面々(−3)と小さな客人。
そして、一触即発にも似た張り詰めた空気。
戸惑うに素知らぬ顔でココアを勧める孫に、意外にも言葉を促したのはゼノだった。
「イルミ、いい加減に独り占めしとらんで紹介せい」
こくこく、と両手でカップを持ち喉を潤しているの銀髪を撫で、イルミは家族に向かって口を開いた。

呼ばれて、幼女が顔を上げる。
家族たちは続く言葉を待つ。
だが、いつまで経ってもイルミが再度口を開くことはなく。
「・・・・・・まさか、それで終わりか?」
「うん、終わり」
あっさりさっぱりとイルミが言い放つ。
テーブルじゃなくて卓袱台だったなら、間違いなく往年の秘儀が家族によって炸裂していただろう、とミルキは思った。
そんな事態を悟ってか、が慌てて席を立つ。
クロロに着せられた真紅のワンピースがふんわりと揺れて。
両手で抱きしめているぬいぐるみを顔の位置まで翳し、イルミを覗く面々が身構えるのと同時に頭を軽く叩いた。
クマのもこもこの口がぱかっと開いて、そして。



『てやんでぇ! てめぇらそこに直りやがれ! このお方を誰だと心得る!』



可愛らしいぬいぐるみから発された、ダミ声。しかも江戸下町風。
その不釣合いな様子にシルバは目を見開き、キキョウは小さく口を開いた。
はといえば予定外のことだったのか、あたふたとクマを抱きなおし、頭を撫でたり鼻を合わせたりして。
イルミとミルキ、そしてカルトは、そんな愛らしいの様子を微笑ましげに眺めている。
そしてもう一度、がおずおずとクマの頭を叩く。
すると今度もやはりダミ声で、けれど先ほどよりは品の良い言葉が流れてきた。
『えー・・・お初にお目にかかります。私の名はクマ。そしてこちらにおわす麗しくうら若く愛らしい少女が私のご主人』
もこもこの短い腕が、自分を抱えているを指し示して。
でございます。どうぞ今後よしなに、お見知りおきを』
揃って頭を下げる幼女とぬいぐるみに、彼らはまるで腹話術でも見ている気分だったとか。
よく出来ました、とイルミが手を伸ばすと、は嬉しそうにそれを感受し、クマは容赦なくベシッと撥ね退けた。





2004年8月2日