屋敷まで飛行船を乗り付けることなく、珍しく門から入ってきた主人の面々に頭を下げつつ、執事たちは思った。
我らが主の一人、イルミ様はロリコンだったのか――――――と。
天使とピストル(ゾルディック家編)
何故だかついてくるミケを気にしつつ、はイルミに手を引かれて前に進む。
頭だけで後ろを振り返って首を傾げてみると、大きな狩猟犬も同じように首を傾げた。
思わず笑んだを見下ろして、イルミは無表情の中にも笑顔をのぞかせる。
カルトは静かな眼差しでそんな二人を見やり、ゼノは楽しそうに口元の髭を撫で付けた。
見えてくる立派な建物の前では、スーツ姿に身を包んだ執事たちが頭を下げて待っている。
窓からミケの顔が見える。
カナリアはぼんやりとそんなことを考えながら、壁際に突っ立っていた。
雇い主である彼らを前にして自分の出る幕はない。彼女のような見習いではなく、執事長のゴトーが自ら彼らの相手を仰せつかるのだ。
だからこそ手持ち無沙汰に、けれど身体の心から緊張してカナリアは立っている。
窓の向こうにはやはりミケの顔が見え、その手前のソファーには小さな銀髪の幼女が座っていた。
そして隣には、当然のようにゾルディック家の長男。
たとえどんなに疑問があっても、聞きたいことがあっても、ツッコミたいことがあっても、執事は主人のプライバシーに首を突っ込んではいけない。貝のごとく口を噤むのが鉄則である。
この場にいる執事たちは全員が同じツッコミを胸に抱いていたが、けれど彼らはそんな執事の鑑だったので何も言うことはしなかった。
ひとまず休憩したゾルディック家の主たちが、再び屋敷へと向かっていくの見送って。
地獄耳の彼らのこと、足音が聞こえなくなっても油断は出来ない。
たっぷり20分は経っただろうか、カップや皿を片付け終わってようやく一言。
「・・・・・・・・・イルミ様って」
「カナリア、それ以上は言うな」
きつい口調で止められたが、そう言ったゴトー自身、眉間にいつもとは違う皺が寄っている。
他の先輩執事たちを見回しても、皆どこか精神的に疲れたような、ぐったりとした顔をしていて。
主人に疑問を抱いても、それを口にしてはいけない。ましてはここは、ゾルディック家。命が惜しければ喋らないが吉すぎる。
主たちがいたのは、たかが十分程度のことだったのに、何故かダメージだけが大きくて。
執事たちが互いに視線を合わさず目を伏せる中で、ミケだけが主人の去った方を見つめていた。
ミケは執事の館で止められたため、先ほどまで後ろにあった大きな影がついてこない。
それをどこか寂しそうにしているに気づき、イルミは彼女を抱き上げた。
瞳を合わせて、少しだけ拗ねた口調で。
「ミケが気に入った?」
返される頷きに、ますます機嫌を傾かせる。
「後で遊べばいいよ。呼べば来るし」
よんでくれる?
「が望むならね」
どんどんと斜めになっていくご機嫌も、けれどがぱぁっと笑みを浮かべたことでメーターは元に戻った。
むしろ、先ほどよりも良い方へと針は進んで。
しかし前を歩く父親の気配がかすかに変化したことに気づいて、溜息交じりに言葉を続ける。
「だけどその前に俺の家族に会ってくれる? 母さんとか、待ってるみたいだし」
おかあさん?
「そう、俺を生んだ人」
簡単な説明にもは首を傾げる。
がそういった反応を返す事情を知っている―――共にいる間に知ったイルミは、判りやすいように説明を付け加えた。
「俺とが一緒にいるための許しをもらっておくと、後が楽になる人のことだよ」
教えられて、要領を得たようにがこくんと頷いた。
おいちょっと待てコラ。
・・・・・・などと、どこからか無言のツッコミが入ったのだが、当の二人は気がつかなかったようである。
2004年7月30日